〈イカリ視点〉数分前

 魔王の奴にホーンのカケラを奪われてしまったおれは、マリーを殺された怒りで腹の中が煮えくり返っていた。


 なんでそこまでしてミナトをかばうんだよっ。なんでおれじゃいけなかったんだよ。おれなら、幸せにしてやれたかもしれないのにっ。


 魔族に石を投げつけられ、トボトボと歩くおれの目の前に涙を流すミナトの姿が見えてきた。くっそぅ。ホーンのカケラさえあれば、ミナトを殺せたのに。なんでミナトが生きていて、マリーが死ななきゃならなかったんだよ。


 誰か、誰でもいいから教えてくれよ。


 やがて、荒れ果てた道端でたたずむおれをミナトが見つけた。その目は、これまで見たことのないほどの狂気に支配されている。


 ふふっ。心の中でおれは笑う。そうだ、こいつだ。こいつはまだホーンを奪われていない。しかも、この目。今ならミナトを利用できる。


 ミナトに胸ぐらをつかまれながら、そんなことをぼんやりと考えていた。


「イカリ!! お前がマリーを殺したのか!? ぼくと間違えて、彼女をっ」

「いいや。マリーを殺したのは魔王だ」


 ふいに胸ぐらをつかんでいた重みが軽くなる。


「そんな。魔王が」


 そうしてこいつは、驚くほど人を疑わないときている。なぁ、魔王。あんたとミナトを同時に処分できるいい方法を考えついたぜ。


 おれは、優しい弟のフリをして、ミナトの肩をつかんだ。


「おれも、信じられなかったよ。でも、魔王はお前を殺そうとしたんだ。おれは、お前を魔王に会わせてやろうと思って連れ去った。それがマリーだとも知らずに。だから、恨むべきは魔王だ」

「魔王っ」


 ふふっ。ミナトの考えていることなんて、手に取るようにわかる。お前は、おれと同じ修羅になれ。そしてホーンの力を使うことで命をすり減らし、そして死んでしまえばいい。


「ミナト。おれのホーンの力は魔王に奪われてしまった。共に城に帰り、対策を練ろうではないか。もちろん、ホーンの使い方はお前にも教えてやるぜ」

「でも、その前に。ぼくの力で魔王を殺しに行ってみたい。マリーを殺した仇を討ちたいんだ」


 わかったよ。そう言っておれは、ミナトにホーンの力の使い方、攻撃方法を教えた。こいつはなにも疑わない。自分の命を削っていることも、もう忘れている。こいつは、使える。


 つづく


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