第18話 おもい
目の前でうずくまる魔王様を前に、おれは宿屋の主人からもらった塗り薬を懐から取り出して、魔王様のあと少しで完全に元の形に戻るホーンの先に塗りつけた。
「痛みで弱音を吐くのは、決して悪いことじゃありません」
「デルタ。我では、皆を守れない。皆を目の前で失ってしまう。こんなのは、魔王ではない。死神だ」
「だとしても、おれにとってあなたは魔王様なんですよ。覚えてます? 子供の頃のこと。魔王様は、大地を耕して、肥えた大地にするって意気込んでいたことを」
あの、キラキラと輝いていた眼差しを。純粋な願いを。
「だが今は。大切なそなたすら守ることができないかもしれないのに」
「だから。約束したでしょ? おれは命がけであなたのことを守りますって。あなたがおれを守る必要はないんです。おれがあなたを守れたなら、それで本望なんです」
「だが、我はそなたを失いたくないっ」
「おれだって、黙って死にたくなんかありませんよ。だってまだ、あなたに愛してるって伝えていませんからね」
「デルタ?」
もう、いいよな? 言ってしまっても。おれの、本当の気持ちを。
「初めて会った時から、おれはあなたに驚かされっぱなしなんです。そのたびに、あなたを深く愛してしまうんです。それは、友達の好きなんかじゃない。愛してしまってどうしようもない想いなんです」
これで、嫌われたとしても。それでも、おれは、後悔なんてしたくないから。
「デルタっ」
ふいに魔王様に抱きしめられた。暖かい。まだ生乾きの髪からは、シャンプーの香りがする。おれは、どうしたものかと迷った挙句、魔王様を抱き返した。
「我も、我もそなたを愛しているのだ。ヨコシマな気持ちを悟られぬよう、必死にあがいてきたが、もう限界だ。デルタ、我を愛すると言ってくれるのならば、どうか絶対に死なないでくれたまえ。そうしてまた、平和な治世を取り戻せた暁には、我と共に床を共にしてくれないだろうか?」
床。……床ぉっ!? 勢い込んで、おれは魔王様を引き剥がした。
「魔王様。お気持ちはありがたいのですが、もっとゆっくり進みましょ? それにおれは、あなたを残して死にません。だから、うかつに床を共にするとか、そんなことを言ったらダメです。おれだって理性が保てなくなっちまう」
「我を嫌いになったか?」
「そうじゃない。あなたはもっと、ご自分を大事にしなければなりません。それに、そんなに急に関係が変わってしまったら、おれ、鼻血出しすぎて出血多量になっちまう。まずは、玉座を奪う。そして、全てのホーンを回収して、彼らを人間界に戻す方法を考えましょう? ね?」
魔王様は、幼い頃からなにも変わらない。純粋で、心根の優しい素敵なお方だ。そのお方に愛していると言われた以上、おれ、俄然やる気が湧いてきたんだぜっ。
こくりと頷く魔王様の頭に、ちょっと迷ったけれど頭を優しくなでた。今はフワフワしている魔王様だけど、必ずおれが守ってみせるっ!!
「あと、さっき殴っちゃってごめんなさい」
「構わん。また我が呆けていたら、同じように殴って欲しい」
いや、さすがにそう何度も愛する人を殴りたくないな。けど、なんか心がホワホワする。愛って、両想いって、こんな感じなんだな。
ついに両想いになったところでつづく。
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