第15話 律儀

「魔王様は想像していたよりもずっと紳士だった。わたしの体に埋め込まれたホーンのカケラだって、黙って取り出して立ち去っていればよかったものを、わざわざ返してくれと律儀に話しかけてくれて」


 それは魔王様がとてもお優しい性格だからであって、化け狸だけが特別なわけじゃない。


「それに、偏頭痛になるとわかった上で、ホーンを人間に折って渡した。本来ならば、彼らを人間界に送り返していればよかったのに、そうもしなかった」


 そう。今さらなんだけど、あの時黙って城をあけ渡さず、多少の犠牲は出ようと戦って、勇者を人間界に戻してやればよかったんだ。もう、遅いけどな。


「ならば魔王よ、すでに払った犠牲のために戦うのが筋ではないか!?」


 おれは、化け狸の正論を聞きながら、魔王様の手を取り、立ち上がらせた。


「魔族のために戦い、人間を元の世界に戻す。これ以上の弔いがあると思うか!?」

「……ない、な」


 お。魔王様が答えた。


「ならばそれでよし。わたしはここで退散しようと思っていたが、それもできなくなった。だからこそデルタよ、魔王様をしっかり支えてやるんだぞ?」


 なにを、言ってる? これじゃあまるで、今生の別れみたいじゃないか?


 そう思っている隙に、まばゆいばかりの光に目が眩んだ。化け狸は、分厚い石の塊になって、おれたちをかばうように立ちはだかっていた。


「化け狸!?」


 おれの呼びかけもむなしく、化け狸は石のカケラとなり、バラバラに崩れてしまった。


「おい、嘘だろう? お前また、おれたちのことをだましているんだよなぁ!?」


 だが、化け狸は答えない。そんなおれたちの頭上で、舌打ちが聞こえた。


 イカリ? いや、あれは、ミナト!?


「奇襲は失敗したな。でも、楽しみはとっておく主義なんだよね」

「ミナト? お前、なに言ってるんだよ!?」

「聞いたんだよ、イカリから全部。魔王がマリーを殺したんだってね」

「なに言ってるんだよ。イカリだって彼女を殺そうとしていたんだぞ?」


 魔王様もなにか言ってくださいよっ!! けど、マリーを救えず、化け狸まで失った魔王様はなにも言うことができない。ああ、シロちゃんのこととか思い出したりしていないといいんだけどな。


「どんなに綺麗な顔をしていたって、あんたは所詮魔王なんだ。残りのホーンは城にある。ぼくたちは、城で待っている」


 そう言うと、ミナトは消えてしまった。っていうかあいつ、瞬間移動なんてどこで覚えたよ? 自分の命を削ってるって意識はあるのか?


「魔王様、城に急ぎましょう!! ミナトの奴、イカリになにかを吹き込まれたに違いない」


 だが、声をかけても魔王様は動こうともしない。


「魔王様っ!!」

「我は、我は間違っていたのかもしれない」


 力なくうなだれる魔王様を押し倒すのならば今しかない。


 けど、こんな状態の魔王様に手を出しても、少しもうれしくなんかないっ!!


 はてさてどうなるのか、つづくんだよ。

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