慟哭、その先にあるもの
〈ミナト視点〉そして知ることになる
ふいに、脈絡もなく目の前が揺らいだ。一晩中歩いていたから、体力が限界になっているのかもしれない。
そう思ったけれど、すぐに違うとわかった。
ぼくは、ぼくの姿に戻った。
マリーは、死んだのだ。
誰が殺した? 善良な彼女を、誰がっ!?
胸にさがるネックレスに手をやる。ぼくが彼女から守護のネックレスを奪ったせいだ。ぼくのせいで彼女はっ。
悠長に魔王を探している場合なんかじゃなかったんだ。
だいたい、魔王はぼくの味方になってくれるか、それすらもわからないというのに。
はらはらと流れ落ちる涙がネックレスをゆらす。すると、ネックレスからマリーの映像が浮かび上がった。
『ミナト様。あなた様がこれを観ていらっしゃるということは、わたくしはもう生きてはいないのですね。
わたくしは、幼い頃、祖母にとても可愛がられました。両親からもそれはそれは可愛がられましたけれど、たくさんいる兄弟の中でわたくしだけ、祖母から引き継いだ変化の術があります。その力のせいで城の者に捕らえられ、他の魔族に変化の術を教えるよう強要されました。
変化の術は、時に人を騙す、危険な術です。わたくしはかたくなに拒み、そして守護のネックレスのおかげで殺されることもなく、侍女として、皆様のお世話をさせていただくことになりました。
そんな中でわたくしは、他の魔族にからかわれているわたくしを助けてくださったイカリ様に、うかつにも身分違いの好意を抱いておりました。ですが、そのイカリ様が大切なお兄様であらせられるミナト様に敵意を抱いていることにも気がついてしまったのです。
わたくしは、イカリ様からいつもとても高価な贈り物をくださろうとしても、どうしても受け取ることはできませんでした。
それは、もし、わたくしに贈り物をしたせいで、イカリ様の立場が危うくなったらと思うと、怖かったのです。
こうしてミナト様の身代わりになったのもすべて、イカリ様にミナト様を殺させてはならないと判断したからです。
イカリ様はとても高潔でいらっしゃる。ですが、自分の思いを伝えるのはとてもお上手とは言い難い大変不器用なお方です。それ故に、ミナト様を殺してしまってから、後悔して欲しくないと思ったのです。
ですが、相手がわたくしでしたら、なんてことはないただの侍女です。一人くらい居なくなっても、どうとも思わないことでしょう。
ミナト様、もし、これを観た後にイカリ様と再会されるようなことがありましたら、その時はどうか、兄弟仲良く、手を取り合ってくださいね。そしていつの日か、人間界に戻れることをお祈り申し上げております。
わたくしのことは、どうかお気になさらないでください。
お体にお気をつけて、お元気で、長生きしてください。
さようなら』
マリー。どうして? どうして、ぼくなんかのために。ぼくたちなんかのためにっ。
……誰が、マリーを殺した? ぼくにできることはあるんじゃないのか?
もし、殺したのがイカリだとしても、魔王だとしても、ぼくはそいつを許さない。絶対に、許さないんだ。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます