第13話 矛先

 女将はマリーを抱きしめて、声を上げて泣きじゃくった。助けるって、探すって約束したのに、果たせなかった。


 なんでこんなことになるんだよぅ!!!


 地面に叩きつけられたショックで気を失っていたイカリがぼんやりと眼を覚ます。そして、沈痛な面持ちをたたえる魔王様を見て、勝ち誇ったような笑顔を見せた


「……ははっ。おれの勝ちだ。ホーンは城に戻ればまだ残っている。ザマァーミロ、魔王!?」


 だが、魔王様の視線の先を突き止めたイカリは、その虚勢を失い、キョロキョロと忙しく目を動かした。


「な、んで? マリー? どうして? 死んだ?」


 主人はゆっくりと歩いて行くと、上半身を起こしかけたイカリの胸ぐらを掴み、殴りつけた。


「貴様がっ!! マリーを、わたしたちの大事な娘を殺したんだっ!! この目の前でっ!! 貴様が、貴様がぁーっ!!!」


 鈍い音が何度か響き、さすがの剣幕にほかの魔族たちも集まってきた。


「よすのだ、主人。気持ちはわかるが、この者は人間、これ以上は死んでしまう」


 魔王様が主人の手を掴むが、主人の怒りはおさまるはずがない。


「人間なんかが魔界に来たから、災いが起きたんだ!! 大地は枯れ果て、宿屋も壊され、マリーまで殺されたんだぞぅ!! それを、許せと言うのか!?」

「許せとは言わない。ただ、そなたの心にしこりが残ってしまうのが気がかりなのだ」


 ああ、どこまでもお優しい魔王様。


 主人の手から逃れたイカリは、這うようにマリーの元へ進んだ。


「マリー? 本当にお前なのか?」

「おそらく彼女は、ミナトを逃すために彼に化けたのであろう」


 なんで? と、イカリがつづける。


「そんなに、そんなにあいつが好きなのかよぅ!? 命をかけるほど好きだったのかよぅ」


 魔王様が屈みこんで、よく似合っていた赤いリボンをほどいて、マリーの髪に結んだ。


「せめて最後に、ご両親の愛を感じられたなら」


 だが、そんなお優しい魔王様の手を、イカリが乱暴に振り払った。


「魔王が触るなっ!!」


 すると、どこからか石が飛んできてイカリにあたった。


「人間のせいだっ!!」

「人間が魔界に来たから、災いが起きたんだ!!」

「人間は人間界に帰れっ!!」


 そうだそうだ、と、帰れコールが響く中、ホーンのカケラを持たないイカリは、ここから立ち去るしかなかった。


 せめてもの救いは、マリーが最後に両親の姿を見れたこと。そして、彼女の死に顔に微笑みが浮かんでいることだけだった。


 つづく。

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