第11話 秘密兵器と重い覚悟

「わたくしども夫婦は、この宿屋を経営しておりますが、本当は裏の顔があります。実の所、錬金術師でもあるのですよ」


 えーと? 錬金術師ってなんだっけ?


「そのため、魔王様の頭痛を治すべく、先生と一緒に作ってきたものがあります。それが、この軟膏とリボンです」


 ごめん。軟膏はともかく、赤いリボンに笑いがこみ上げてしまった。


「この軟膏を折れたホーンの先に塗りつけて、このリボンで包み隠し、その錠剤とも組み合わせれば、頭痛は一時的にですが軽減し、魔王様本来のお力が出せるはす」


 宿屋の主人は、深刻ぶった顔をして言うものだから、おれは魔王様のホーンの先に軟膏を塗りつけ、可愛らしい赤いリボンを結わい付けた。


 まずいっ!! なにこれ!? すんげぇ似合うんだけどっ!!


「ほう。これは。だが、なぜ我の為にそこまでしてくれるのだ?」

「それは――」


 主人が黙り込むと、感情をあらわにした女将が泣き叫びながらすがりついてくる。


「あの子を、マリーのことをどうか城から助け出してはくれないでしょうか!? 子沢山とは言え、わたくしたちにとっては最後の子です。せめて、元気な姿を見て、一緒にイチゴを食べたいのです」

「イチゴ、とは?」


 女将は鼻をすすりながら、瓶に詰まった謎の赤いものを見せてくれた。


「農地がもうほとんど枯れておりますので、ジャムにするしかありませんでしたが、これがイチゴと言います。よろしければ差し上げます」

「うむ。ジャムか。それで? マリーというのは、どういう子なのだ?」

「今は亡き祖母が大変可愛がっていた狸の女の子です。あの子は類稀に見る変化の術を使える子でした。あの術を使えるのは祖母の他に、もうあの子しか残っておりません」

「それで攫われたのか?」

「それもありましょうが。あの子はとても愛嬌のある可愛い子でした。ですから城で、酷い目にあっていないか心配で」


 うん、その親心はおれにもわかる。魔王様も若干目を潤ませながら、熱心に話を聞いている。


「マリーには守護のネックレスをつけてあります。それがある以上、あの子には手出しはできないはずです。どうか、どうか探し出してはもらえないでしょうか!?」

「承知した。そなたらがしてくれた行い、そしてその深い愛情をしかと受け止め、マリーを探す事にいたそう」

「あああっ。ありがとうございます!! ありがとうございますぅ!!」


 うんうん、絶対に探し出してみせるからなっ。


 つづくのであーる

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