第10話 結論
狸たちは一様に慌てふためいていた。そんなに慌てるくらいなら、もっとたくさん仲間を呼んでおけばよかったのにな。
「で? とりあえず部屋に入る?」
「だが、昨夜二人が愛し合った部屋では、わたしらが落ち着かない」
おれは、博識の爺さんに化けた狸の頭を片手で掴んだ。
「おかしな言いがかりをつけないでくれ。おれは一晩中、ジャスティスの額にタオルをあてていただけだ。やましいことはなにもないっ!!」
もうさ、おれはそれでもいいんだけどさ。魔王様をそういう目で見られるのが一番嫌なのだよ。なんか汚されてる感じがしてさぁ。
「まぁ、そんなことだろうとは思ったが。では、入るとするかの」
化け狸三人はズカズカと部屋に入ってくるなり、ベッドは一つしか使った形跡がないとか、魔王様の髪がまだ少し濡れているだとか、色々と面倒くさいことを言い出した。
「お前らなぁー。昨夜この部屋に奇襲をかけに来たのだってお見通しなんだからなっ!!」
おれが言うと、博識ぶった爺さんがそれは誤解だと言い張った。
「わたしは魔王様に少しでも早く頭痛を直して欲しくて、水なしで飲めるこの錠剤を持ってきただけだ」
「なんだとぉー!? そんな都合のいい薬がこの世にあるもんかよ!? おおかた、魔王様を昏倒させて、寝首を掻くつもりなんだろう!?」
「ほう、そのような薬があったとは知らなんだ。どぉれ、一つ飲んでみようではないか」
「魔王様っ!?」
魔王様はなーんの疑いも持たずに、怪しいコガネムシ色の錠剤を一つ、口の中に放り込んでしまった。
「ちよっ、いくらなんでも疑ってくださいよぉ。おれたちはお尋ね者なんですからねっ!?」
魔王様になにかあったらただじゃすまないオーラをまき散らしつつ、見守る。やがて、うん? と一つうなった魔王様がとーっても晴れやかな笑顔でおれの顔を見た。
「見てくれ、デルタ。痛みが半減したぞっ!!」
「え? マジっすか? 狸の薬ですよ?」
「エヘン。狸と侮るなかれ。わたしはこう見えても狸界の薬師でな。だが、うっかり勇者に見つかると面倒くさいことになるので、地蔵に化けて、世相を伺っておったのじゃ」
なんと、薬師様とはー!! おみそれしやした。
「うん? 勇者に見つかると面倒と言ったか?」
「はい。勇者は別の次元から現れて、魔王様から玉座を奪って以来、碌な話を聞きません。現に、わたくしどもの末の娘は幼少のみぎりに城に攫われてしまいました。この地域の薬師もみな駆り出されて、王子の病を治させるとか嘘八百を言い置いて、皆殺しですよ」
あのー、はい? ユウキ、そんな悪い事してんの!? もう一刻も猶予はない。早く玉座を奪わなければ。あ、でも、魔王様のホーンも集めなきゃだし。どうしようか?
悩みつつもつづくんだ
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