第9話 疑惑

「ジャスティス、服を脱いでからシャワーを浴びてくださいよぉー」


 いや、いいんですよ、別に。これはこれで役得なんで。口ほど迷惑してないんだ、本当に。


「すまない。服も洗濯したくて、時短するならついでに、と思ったのだが、逆効果だったな。次からは気をつける」

「いいんですよぉー。あ、髪はおれが乾かしますんで」


 それにしても、黒々とした髪がよく蘇ったものだ。いまだに脱獄したなんて信じられないや。


「ふふっ。髪はな。すぐに蘇るのだ。少し弱ったフリをしておった方が、敵も欺けると思ったものでな」


 蠱惑的に微笑む魔王様。うーん、セクシー。


「え? では、最初から脱獄する気でいたのですか?」

「ああ。友とはいえ、デルタに必要以上に負担をかけたくなかったし、農地が心配だったからな。元々十年で脱獄するつもりでいたのだが、ホーンを折ったことで計画が遅れた。すまなかったな、デルタ」

「ジャスティス、あやまらないでくださいよぉ。おれだって、あなたと一緒じゃなかったら、とっくの昔に脱獄してましたからー」

「なんだ。それでは我々は、共におなじことを考えていたというわけか。とことん仲が良いのだな」


 歯を見せて笑う魔王様にクラクラしながらも、昨夜の襲撃もどきの話をしなければならなかった。あんの化け狸。ただじゃおかない。


「そのようなことが。しかし、あの狸にもなにか理由があるのかもしれん。まずは話を聞かないことにはな」

「もぉー、ジャスティスは甘いからなぁー。ちゃーんと話あいができるような狸だったらいいんですけどねー」


 魔族は基本、争いを好む種族だ。他人の苦痛や悩みなんかも大好物。だから、昨夜化け狸にこの宿屋に連れてこられた時も、宿屋がいつただの葉っぱに戻ってしまうだろうかという不安で一杯だった。


 それなのに、予想に反して一晩普通に過ごせてしまった。


 なぜだ?


 狸たちが総出で集まれば、おれの魔力なんて吹き飛んでしまった可能性すらあったというのに。


「ともかく、話し合いをしなければならないな。こうして一晩休ませてもらった礼も言いたいし」


 魔王様はおれの結界と魔法を簡単に解いて、ドアを開けた。そこには博識の爺さんに化けた狸と、宿屋の主人、それに女将が勢ぞろいしていた。


 さてさて、なにが起こるやら? つづくぜ




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る