第8話 一応朝日は昇るんだぜ
カーテンの向こう側の窓が明るくなってきた。朝日が昇ってきたか。
昨夜、部屋の前で怪しい気配を感じた。それは、例の化け狸と宿屋の主人、それに女将だった。どうやら三人とも化け狸の類で、魔王様をどうにかしようとしていたらしいのだが、おれの魔法でこの部屋に入ることはできず、断念したとみる。
それで、おれはと言うと。
魔王様の頭痛を少しでも楽にして差し上げたくて、タオルを濡らして魔王様の額にあてて、また新しいタオルを濡らす、といった作業に明け暮れていた。いやらしい展開なんて一つもなかった。これは、魔族の血にかけて誓える。
え? 眠くないのかだって? そりゃあま、少しは眠気もあるけど、魔王様の寝顔を見ていたらさ、そんなの吹き飛んじまう。だって、こんなに無防備な寝顔、他の奴には見せたことがないんだぜ? こんな顔見せてもらっていたら、逆に疲れなんて吹き飛んじまうさ。
さて、そろそろ魔王様がお目覚めになるかな?
おれは、コップに水を入れて、魔王様の寝台へと運ぶ。少しは痛みがましになっただろうか?
そんなおれの目に、バチッと目を開けた魔王様が映り込む。
「デルタ。そなたは一晩中我の看護をしてくれておったのか?」
「おはようございます、ジャスティス。そんなの、下僕としては当たり前のことですよ。ささ、お水でも飲んでください。それから、シャワーの方は昨晩使わせていただいたので、異常なく使えます。もしお体に触りがなければ、さっと浴びるだけでも気分が違うんじゃないかと思いますが、いかがしましょ?」
なにを思ったか、魔王様はおれの手を両手で包んだ。
「ありがとう。そなたは本当に我の一番の心の友だ。心から感謝している。それから、おはよう。このようにあいさつできる日が来るとは、夢のようだ」
「ジャスティスさぁ、この部屋で二人っきりで大丈夫でした?」
「ああ、確かそなたと我は恋人という設定なのであろう? ならば、それでよいのではないか?」
うん。多分そういう設定だよな。わかってくれていてよかったぜ。なんだかすこーしだけ涙がちょちょぎれたりしているけどな。
「では、シャワーを借りるとしよう」
「はい。ごゆっくりどうぞ」
シャー、って音がすると、なんだかおれが落ち着かない。ああ、今頃魔王様はとーっても無防備なお姿でシャワーを浴びておられる。むっふふーん。
でも、覗くもんかっ!! ここは魔王様がおれの理性を信じてくれているから、おれだって踏ん張っていられるんだ。
それなのに、さ……。
「デルタ、すまないのだが、乾かすのを手伝ってもらってもよいだろうか?」
ま、魔王様、まさかの服を着てシャワーを浴びておられたー!! エロさ百倍。こいつはヤベェや。
理性を保てるか、次回につづく。
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