第6話 博識の爺さんと、宿屋の主人
まぁ、そういうことならぁ? おれたちの仲間にしてやってもいい。だが、このお方の正体をバラしたらタダじゃぁおかない。それでいいですよね?
「ああ。これで今夜は我もゆっくりと休めそうだ。協力感謝する」
「いいってことよ。でもさ、そういうことなら、子供よりも博識な爺さんの方が都合がいいんで、ちょっと化けてもいいですか? ホーンのカケラとやらは、その後に回収してください」
そう言うと、化け狸の子供は、いかにも博識そうな白髪の爺さんに化けてしまった。
「さぁ、カケラを回収してくだされ」
「承知」
短く告げた魔王様は、両手を広げてホーンのカケラを回収する。また少しだけ、ホーンが元の形に近づきつつある。
「ジャスティス、頭痛の方はどうです?」
「実は先程から酷くなってな。できれば早く、体を休めたいのだ」
「だ、そうだ。爺さん、って呼んでいいんだよな? 宿のアテはあるのかい?」
「ああ、もちろんじゃ」
って言っても、本当にこの化け狸を信じていいものなのだろうか? おれはともかく、頭痛に加え、さっきの眠りウサギが効いているだろう魔王様だけは、健やかに眠らせてあげたい。いやもうここはシリアスだ。妄想はナシナシ。さっきのどさくさで魔王様がおれの胸の中で眠ってくれたお顔を見られただけでご飯一ヶ月食べなくても生きていけるぜ。
そんなわけで、博識そうな爺さんに化けた狸を先頭に歩いて行くと、まぁささやかながら街が見えてきた。魔族ってのは基本夜行性だったり、あんまり眠らなくても良かったりするのだが、おれたちは監禁された十六年、ほとんど眠っていない。寝ている間に殺される危険があったからだ。
そんなわけで一刻も早く体を休めたいおれたちの前に、すんげぇ豪華そうな宿屋が見えてきた。いや、おれたちの全財産は土産で渡された野菜とクマの干し肉だけなのだが? 一体化け狸はいくら持っているんだ?
「あーら、先生じゃないさぁ。いつもご贔屓にしてもらってますぅー。ささ。こちらへどうぞ」
「うむ、ご苦労」
なんて、宿屋の女将らしき者へ偉そうに声をかける化け狸。ああ、もちろんもふもふの尻尾と耳は健在なので、どんなに偉そうにしていても、この爺さんが化け狸なのはみんな承知のはず。
とりあえず受付に連れて行かれるおれたち。
「あー、先生!! こちらの若者とは、どういったご関係で?」
ここでも化け狸は先生か。見たとこ宿主と女将がなんの魔族なのかいまいちよくわからんのだが。狸の知り合い?
「いやー、この者共はわたしの教え子でな。今日は社会見学に連れてきたと言うわけさ。ところで、部屋は空いているかい?」
「えーと? 三人部屋でよろしいのでしょうか?」
「いや、いつものシングルと、ツインルームを頼む。この者共、こう見えても仲の良い恋人同士なのじゃよ」
わっはっはっと笑う化け狸。おのれ、おれたちを見世物にしやがって。
「そういうことなら、とっておきのお部屋に案内いたしましよう。ささ、どうぞ」
なんて、主人自ら案内してくれたが、恋人だなんて言われて、魔王様気分を悪くしてないだろうか?
ふっと視線を落とすと、さっきより重みを増した胸元に、魔王様が真っ青な顔をしておれによりかかっているではないか。頭痛よっぽど酷いんだな。お可哀想に。そりゃあ恋人だとか言われても、気がつかないよな。部屋に入ったらゆっくり休んでもらお。
そして、予想を覆す展開に!? つづくのだっ。
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