第5話 案件
「や、あのぅ、ジャスティス?」
魔王様がうなだれてなにかをつぶやいておられる。おれの本性を知られてしまった。おれが魔王様を大好きだって気持ちがバレてしまった。
「デルタよ」
ようやく口を開いた魔王様が、難しいことを考える時によくやる、眉間に一本だけシワを寄せて、おれに呼びかけた。
「はい。なんでしょう」
もうこうなったら、開き直ってやる。ああ、もうそれしかない。
「ヨコシマ、とはなんだ?」
あ。魔王様、幼少期に学校に行けなかったから、そういう言葉、あんまり知らなかったんだ。セーフ。これならなんとか――。
「このにいちゃんは、黒髪のにいちゃんのことが好きで好きでたまらなくって、鼻血が出るほど大好きなんだってこと!!」
「こんの化け狸めっ!!」
せっかくなんとかごまかせると思っていたというのに、なんてこと言いやがる!?
うん? でも、なんだかとっても魔王様がお優しいお顔をおれに向けてくれてる。
〔おれの妄想スタート〕
『デルタよ。その思い、うれしく思う。実は我も、そなたのことをずっと好いておったのだ』
『ジャスティス!!』
そして二人は永遠に結ばれるー。なんてことあったらなぁ。
〔おれの妄想終了〕
「それは本当のことか? デルタよ」
えーい、ままよっ。
「はい。幼少期からジャスティスのことをずっとずっと大好きなんです」
「我もだ。そんなに強く思ってくれているとは知らなかった。ありがとう、デルタよ。どうかこれから先も、その思いを深めてくれたらとても嬉しく思う」
うん。あまりにも純粋な魔王様の言葉に、さすがの化け狸も二の句が告げまい。そうなんだよ。もし、魔王様がもっと鋭い人だったら、おれなんてとっくの昔に拒否されていたはずだ。よーし、力が湧いてきた。妄想よりも強烈な魔王様からの愛の言葉で、十日ほど食べられなくても我慢できる!!
「ありがたきお言葉。これからもずっと大好きです、ジャスティス!!」
ひしと手を取り合うおれたちを前に、ぽかんと立ち尽くす化け狸。
「いいなぁ……」
おまっ、そういうのは反則だぞぉっ!!
「わたしはずっとひとりぼっちだったから、そういう関係に憧れちゃうな。ねぇ、あんた魔王様なんでしょう?」
「だったらなんだっ!!」
おれは魔王様の前に立ちふさがり、魔王様直々にお造りになられた短剣を構える。
「だったらさぁ、わたしも一緒に連れて行っておくれよ」
「だからぁ。おれたちはお尋ね者なんだよ。今夜だって、安心して眠る場所さえないんだぞ?」
「だったら余計に、わたしの協力が必要になるのではないかな? だって、そこは腐っても化け狸だもん。これまで貯めてきたお供え物をお金に換金してきたっていう資金面や、宿屋の主人と知り合いだったりっていう人脈なんか、利用できるのではないかなぁ?」
そういうことは先に言えっ!!
なにかとものいりなもので、つづく
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