第4話 地蔵、嘘をつく

「だが、ホーンのカケラを回収したら、そなたはただの石像に戻ってしまうのであろう? 目の前に供えられた供物を食せないのではなんとももどかしいではないか」


 いや、魔王様、シロちゃんの話をしておいて、それは無理です。


 ところが。地蔵は突如として魔王様から飛び退くと、深々と頭を下げて謝ってくる。


「わたしは嘘をついていました!! 実の所、わたしだって一応は魔族の端くれです。そりゃあ、地蔵になれば、供物を供えられはしますが、それでもほとんどが、旅人に食べられてしまうのがオチでした。そんなわたしですが、実の所、供物欲しさに化けていた狸なのでした」


 は? ドロンと音がして、地蔵が狸になった。


「はあっ!? お前、おれたちをだましてたのかぁ!?」

「いやぁ、今時狸に化かされる者がいるものだと感心していたのだ。痛い、やめてくれ」


 おれは遠慮なく化け狸のほっぺたを両側から引っ張った。


「狸なら、ホーンのカケラがなくても動けるよな!? ジャスティス、遠慮なくやっちゃって。あと、この化け狸の皮を剥いで、肉は燻製にして、何でも屋さんに売りに行きますからねっ」

「ひっ、ひぃぃぃぃ」

「まぁそう怒るでない、デルタよ。そなたの気持ちもわかるが、この狸も生きるのに必死だったのであろう。ホーンのカケラは回収させてもらうが、終わったら好きなように生きるが良い。シロちゃんの分までな」


 シロちゃんがここまでのパワーワードになるとは。もう本当にトラウマ案件だったな。


 なのに、化け狸は懲りもせずに、少年の姿に化け変わった。もちろん、今度はもふもふの耳と尻尾付きだが。


「殺さないでくれたお礼ってほどでもないんだけどさ。にいちゃんたち、なんだか危なっかしいから、わたしがサポートしてあげるよ」

「は?」


 なに? この狸坊主はおれと魔王様のきゃっきゃうふふの二人旅を全力で邪魔するつもりなわけ!?


〔ひっさしぶりにおれの妄想スタート〕

『狸よ。そなたを見ているとどうしてもシロちゃんを思い出してしまう。それに我は、このデルタと二人っきりでホーンを回収して行きたいのだ』


〔おれの妄想終了〕


「狸よ。そなたを見ていると、どうしてもシロちゃんを思い出してしまうのだ。あの時食べた肉の食感は、今でも忘れずにいる。それに、我らは追われる身の上、そなたに危険が及ぶやもしれん」


 な? ほぼほぼおれの妄想通りだったでしょ? なに、その冷たい目。化け狸の分際で、おれたちの邪魔はさせないんだからなっ。


「黒髪のにいちゃんは、自分がどれほど偉大な存在なのかわかってないんだよ。だからこんな、煩悩第一みたいな側近を連れていられるんだ。いいか? この男の本性はなぁ――」


 おれはあわてて坊主の口を手で塞いだ。そしたら化け狸の奴、おれの手を噛みやがった。


「痛てっ。噛んだなっ!?」

「だとしたらなんだよ!? にいちゃんは、黒髪のにいちゃんにヨコシマな感情抱いてることに違はないだろうっ!? 黒髪のにいちゃんはぼーっとしてるから、そのことに気づかなかっただけさ」


 おっのれ、化け狸!! 燻製はやめてソーセージにしてやるっ!! よくもおれの本性バラしてくれたなぁ!? おれはなぁ、魔王様の善意に甘えてここまでのし上がって来たんだ。煩悩第一のなにが悪い!?


 えっと、あ。魔王様……。


 色々と気まずいのでつづく。




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