第3話 ついに出た
おれたちが脱獄したのはちょうど今日の昼過ぎ。くっそぅ。たかが地蔵に時間をかけすぎてしまった。辺りが完全に暗くなる前に、安全な寝場所を探さなきゃならんというのに。
「ジャスティス!! 地蔵を斬ってもいいですよねっ!?」
「ほぉーう? わたしを斬るか? ならば、この者がわたしのカケラにまみれてたいそう汚くなりそうだが、それでもよいのだな?」
汚れる、だとぅ!? いかん、いかん!! 浄化の魔法はあれど、一瞬でも粉々に粉砕された石にまみれた魔王様なんて――、うっ。本当に鼻血が出てきた。
「地蔵殿、悪いがほんの少しだけだけ、退いてくれまいか? 我の大切な友が負傷したようだ」
負傷。まぁ、心に傷を負っただけだが。魔王様、本当にお優しい。
「ならんっ!! おぬしが一歩でも離れれば、こやつはすーぐわたしを木っ端微塵に砕くに違いないからな」
わかってるじゃん。地蔵。それにこれはただの鼻血だ。魔王様が汚されるのは、本当に勘弁願いたい。
「だが、デルタは時々鼻血を出すのだ。どこか悪いところがあるのかもしれない。我の治癒力では限界があるであろう?」
「うーん?」
「や、いいですよ。鼻血はもう止まっていますし、どこかが悪いわけでもありませんし――」
そう言っている隙に、魔王様のお顔がたいそうお優しいものへと変わってゆくのがわかった。
まさか思い出していたりしないよねぇ? 幼少時の記憶とか。つらかったあの日の思い出とか。
「そなたにそうして抱きつかれていると、不思議なことに、子供の頃のことを思い出す」
あっちゃー。アレだけは思い出してはいけなかったのにぃー。もう地蔵を斬ることなんてできなくなってしまった。
「ほほぉーう? どのような思い出だい?」
「実は、子供の頃、山で白虎の子供と仲間になった。白虎の親もすぐ側で見ていて、たいそう優しい顔をしてくれていた。そなたも覚えておるだろう? デルタよ」
「はい、はい。もうシロちゃん、シロちゃんって可愛がってましたよね」
そう、シロちゃんと名付けたのはおれだった。そのせいで魔王様は白虎に愛着を抱いてしまったのだった。
「そうだ、そのシロちゃんだ」
「なんだか嫌な予感しかしないんだけど?」
さすがの地蔵も、このエピソードを聞いたら腰を抜かすぜ。
「ある日、そのことが我の両親に見抜かれてしまってな。貧しかった我が家は、すぐに白虎を親子ごと捕らえて皮を剥ぎ、売り物にしてしまったのだ」
「どぇーっ!? なんてことをっ!?」
「その晩、珍しく食事に肉が出てきてな。ウサギやネズミとも違う味がしたのだが、すぐにああこれはシロちゃんの肉なのかと判明した」
「トラウマだぁー!! トラウマ案件だぁーっ」
「そんなことが今、走馬灯のように頭の中を横切っていった」
「わ、わ、わかった!! わたしが悪かった。ホーンのカケラを渡すから、これ以上悲しいことを思い出さないでくださいっ!!」
ま、そうなるよな。つづくんだぜ?
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