ホーンのカケラを集める旅に出ることになった その二

第1話 ついに、ついにぃー、告白なるかっ!?

 あぜ道を歩いている最中、不意に魔王様に話しかけられた。


「ところでデルタ。先程は話の腰を折ってしまってすまなかった。あれは、なにを言おうとしていたのだ?」


 あれ、か。いやね、魔王様に愛の告白を、なんて思ってはいたのですよ。でもさぁ、イカリの坊やに邪魔され、その後クマに襲われ、トカゲの老夫婦と別れた今、告白なんてできるものかなぁ?


「あのー、ですね。ジャスティス――?」


 魔王様はおれの言葉なんて聞こえていないとばかりに、路肩を陣取っている石の人形? 確か、お地蔵様とか言ったな? あれの前でしゃがみ込んだ。


「ご気分でも悪いのですか?」

「ジャスティス? それは多分お地蔵様っていう石の守り神みたいなもので、おそらく動かないと思うんだけどなぁ?」


 っていうか、さっきから意図的に告白をさせてくれない魔王様。もう、ドエスなんだからぁ。


「だが、ここからホーンの力を感じる」


 うん。じゃあさぁ、もしかしたらこの石のお人形に、野生の魔族が腰掛けて、そんで、そいつの体にホーンのカケラが埋まっていたから力が人形に移ったとか、そんな感じではないだろうか?


「試しになにかお供えしてみよう。デルタ、少しでいいから干し肉をわけてくれないか?」


 ああもう、おれたちに残された食料はクマの干し肉と、あまり日持ちしない野菜だけなんだぞう!! どうせなら、キュウリとかどうよ?


 なんて、お地蔵様の前にキュウリを差し出す。すると、どうしたことか、お地蔵様が突然動き出したではないか。まぁ多少のぎこちなさはあるが。


「キュウリ大好き。でも、干し肉も食べたいかも?」


 なにしろとても小さな石の人形だ。この可愛らしさでおねだりされたんじゃ、無視できるおれじゃない。


「しょうがないなぁ。少しだけだぞう?」

「わーい!! お肉、久しぶりに食べた。硬いけど」


 どの口が言うんだ。と言葉にはしなかった。もしかしてこのお地蔵様、お腹が空いてここでうずくまっていたのではなかろうか? いや? そもそもお地蔵様なんて、魔界にいたんだっけ? ってか、動くのか?


 そんなお地蔵様が、いきなり細かった目をかっ開き、おれたちに頭を下げてくる。


「やー、ありがたや。近年の食料飢饉でだーれもお供え物をくれないものだから、うっかりただの石像になってしまうところだったわ。して、あなた方はこんなところでなにをしてるんですかい?」


 意外にも饒舌なお地蔵様だった。


「実は、我は奪われたホーンのカケラを探している。そなたからも微弱な力を感じられるのだが、取り出しても差し支えはないだろうか?」


 うん、平和主義者らしいお言葉です、魔王様。


 一方でお地蔵様は、うーんと首を傾げて見せる。


「そのカケラによって、腹が減るのであるとすれば、取り出してくれて構わないのだが、そうすればまた、ただの石像に戻ってしまう。つまり、いくらお供え物があっても食べることができない」

「いや。お地蔵様って、そういうもんじゃなかったっけ?」


 おれはそう言ってあきらめさせようとしたのだが、いかんせん魔王様の目が潤んでいるもので、見過ごせない。こんなことなら、素直に攻撃してくる魔族の方が楽だったのだがな。


 汗をかきつつ、つづくのだ。

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