〈イカリ視点〉 おれが玉座を奪ってやる
ワープして城まで戻ってきたおれの体を強烈な虚脱感が襲う。これがホーンの副作用か。
「くそっ!!」
本物のガチョウの羽根を目の前で剥いで作らせた羽布団を乱暴に蹴り飛ばす。鬱陶しい羽毛が目の前で散らばる。
くっそ。なんだってんだよ、あのクソ魔王!! なんて魔力だ。あれだけの力があれば、おれなんてすぐに殺せたはずなのに。
くっと力を込めて、魔族に作らせた魔法の姿見を覗き込む。そこには、現在の日本の姿が映し出されていた。
多少の貧困などはあっても、慎ましく、平和に暮らしている人間ののんきな顔を見るだけで苛立ちが募る。本当ならおれは、あそこにいるはずだった。望むものは他にない。日本で生まれ、育ちたかっただけなんだ。
それなのに、よりにもよってエセ勇者の両親の元で、この魔界に生まれてきてしまった。しかも、病弱な双子の兄までいる。おれ一人で十分だったのにっ。
くそっ!! くそっ!! ! くそうっ!!!!
苛立ちは否応にも増してゆく。黒い感情に支配されてゆく。
全部あいつの、魔王のせいだっ!!
……そうだ。ミナト。あいつがもしかしたら、魔王の弱点かもしれない。
またミナトの部屋に行くのは気に入らなかった。本来ならばおれの部屋に呼び出し、その命ごと魔王に投げつけることだってできた。それなのに、よりによってミナトは部屋から出ることができないなんてっ。
おれは羽毛を振り払って部屋から出た。こうなったのは全部、ミナトのせいだ。あんなの、兄でもなんでもない。ただの肉の塊だ。おれの足を引っ張る存在はみんな敵だ。おれは、今すぐにでも玉座に座り、魔界を手に入れるんだ。
そして、人間界をつなぐトンネルでも作って、のんきな顔をして暮らしている人間どもを恐怖の混乱に導いてやる。
そうだろう? だって、おれがやらなかったらさぁ。おれがやらなきゃさぁ。
つづくらしいぜ
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