城の中での攻防
〈ミナト視点〉 ぼくたちの戦い
はぁー、とフカフカなベッドに横たわると、魔王に対する罪悪感が少しだけ晴れてくる。
魔王、大丈夫だよね? イカリになんて、負けてないよね?
体がだるい。力を使ったせいだ。
コンコンと軽くドアがノックされた。
「はい?」
ぼくは部屋から出られないのに、わざわざノックしたのは誰?
「ミナト様、お食事をお持ちいたしました」
あ、若い狸の魔族の侍女、マリーか。
「どうぞ」
「失礼いたします」
マリーは美味しそうな匂いをさせて、ご飯を運んできてくれた。
「今、お城の中は混乱しておりまして。料理長が不在のため、私が作ったものなので、お口にあいますでしょうか? と、言いますか」
マリーは刃物をチラつかせながら、後ろ手にドアを閉めた。
ぼくよりほんの少しだけ年上のマリー。魔族だけれど、実のお姉さんのように慕っていた。それでも、やっぱりきみも、ぼくを殺したいのかい?
「失礼いたしました、ミナト様。こういうことにでもしないと、お部屋に入れませんでしたので」
マリーは素早く刃物をぼくの手に握らせた。それから自分の首に巻かれている守護の力が宿ったネックレスを外してぼくにつけた。
「どういうこと?」
「おそらく、これから魔界は戦乱になります。その前に、ミナト様だけはどうしても城外へと逃してさしあげたいのです」
「え? でも、どうやって?」
ぼくは、この部屋から出ることはできない。それなのに。
「申し訳ありません、ミナト様。ほんの少しで構いませんので、御髪をいただけないでしょうか?」
「髪? どうして?」
「私の魔力は変化の術です。祖母の代から伝わる強力なもので、御髪をいただけましたならば、私の魂と、ミナト様の魂は混ざり合い、私がミナト様にかけられた術を纏うことができます。ですのでその隙に、ミナト様は門兵に買い物に出かけると言って、このネックレスを見せてくだされば、城外に脱出することがかないます」
理屈はわかった。でも、わからないな。
「どうしてマリーはぼくにそこまでしてくれるの?」
「いつだったか、イカリ様にからかわれている私を助けてくれたではありませんか。私は、恩知らずではありませんから。ちなみに、変化の術はそのネックレスをつけていらっしゃる限り、ミナト様にも使えるようになります」
マリーはぼくから髪の毛を受け取ると、こうするんだよ、というように手のひらに乗せた。
「輝く意思のあるものよ。その力、我に示せ。変化!!」
なんということだ。マリーがぼくになっている!!
「ささ、お早く。イカリ様に気づかれる前に!」
「この術は、いつまでつづくんだい?」
「私の命が果てるまで。ですが、そう簡単に殺されるわけには参りませんから」
その一言で、彼女がその命をかけてもぼくを守ろうとしてくれているのがわかったから、思わずかけよって抱きしめた。
「ありがとう、マリー」
「勇者様がこちらに来られる前に、祖母の農園で大変甘酸っぱくて美味しい果物を食べたことがあります。赤い身で。名はなんと申したでしょうか? あの果実を、いつの日か皆様で一緒に味わいましょうね」
「……はいっ!! マリー、どうか気をつけて」
「ミナト様も、どうか慎重に」
さようならは言えなかった。ここから離れられなくなってしまうから。ドアは、マリーの体では簡単に開くことができた。ぼくは、マリーのフリをして廊下を進むと、時折からまれる魔族を振り払うようにして、城外へと飛び出すことに成功した。
すべては、魔王に会うために。彼に、イカリの計画を教えなければならない。できるだけ早くだ。
急いでいるけれど、つづきはきちんとあるからね。
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