第6話 トカゲの爺さん?
おれたちは、トカゲの婆さんに誘われるように家の中に入った。これはまた、外側から見るよりも年季の入った古屋で、ちょっとでも風が強く吹こうものなら、家ごと飛ばされそうに見えた。
「ささ、あがっておくれ。爺さんや。戻ったよ」
婆さんが声をかけると、暗い障子の向こう側でどうやら寝ているらしい爺さんの、くぐもった声が聞こえてきた。
「すまないねぇ。爺さん、ああいう人なんだよ」
そう言って、ウサギ鍋をオタマでかき回す婆さん。
この隙に。
「ジャスティス、おれ、なんだかとても嫌な予感がするんですけど」
「うん、我もだ。だが、民が困っているのを助けないわけにはいかない。すまんがデルタ、力を貸してくれないか?」
魔王様はおれの耳元で囁いた。いやー。低音のイケボがほんの少しだけ湿り気を帯びていてさぁ。なんていうかもう、なんだって協力しますよ、おれ単純だもん。
なんてことを思っていたら、魔王様がご自身の魔力でいつのまにか作ってくれていた小ぶりのソードを手渡してくれた。
ああ、この温もり。魔王様の温もり。ポッ。いやぁ、暑い、暑い。
婆さんは鼻歌を歌いながら鍋をかき回している。
毒ヘビは生きた状態で、まだ魔王様の首に巻きついている。
いざとなったらこの毒を、とも思ったが、相手は年寄りだからな。加減してやらなきゃならない。
「さぁ、できた。あんたら、先に食べていておくれよ。あたしは爺さんにお椀を持って行くから」
うん。多分、わかりやすくこの中に毒かなにかが入っているんだろうな。わかってる。わかった上で、魔王様はありがたそうにウサギ鍋を食べ始めた。
ま、いっか。おれたち、他の魔族よりいささか頑丈にできているから、毒を盛られたくらいで倒れたりするほど脆弱じゃな――!?
突然、魔王様の体が大きく揺らいだかと思うと、すぐにおれの胸元に倒れこんできた。
よかった。寝ているだけか。
〔おれの妄想スタート〕
『デルタ、そなたの腕の中だけは安心できる。今しばらく我にその胸を貸してはくれまいか?』
『もちろんですっ!! もちろんですとも、ジャスティス!!』
そうして二人の顔と顔は急接近!! って、キャー!!
〔おれの妄想またしても緊急事態により強制停止〕
寝ているだけ!? そんなわけない。魔王様は、人前で寝ることはない。なぜなら、常に命を脅かされているからだ。なんなら今、超絶ピーンチ?
「美味しいじゃろう? あたしの畑で採れた野菜もたっぷり入っていて、ウサギもいいダシが出ているはずだ。ただし、眠りウサギだがね」
襖の向こうからは婆さんとは別の、もっと歪んで歪な声が響いた。
眠りウサギって、食うとクマでも眠らせることができるヤバイ肉じゃん。魔王様がそれを食っちまったじゃねぇかっ!! だからこんなにスヤスヤと眠っているのか。うんうん。まぁ、こんな油断した顔、めったにお目にかかれないんで、これはこれでおれ得だ。
だが、魔王様をかばいながら戦う日が来るなんて、想像もしてなかったな。全然雑魚感否めないトカゲ老夫婦だが――。
あれは? もしかして、爺さん?
用心深いおれは、椀の中身を口につけてないんだぜ。優秀な部下だから、まだつづくんだ。
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