第5話 トカゲの婆さん

 魔族たるもの。足音を立てずに歩くことくらいならお手の物さ。林から抜けたその先は、なぜか古びた一軒家があった。しかも!! すんごく小さいけれど、畑もある!! どれどれ? キュウリにトマト、ナスにピーマン。


「あんたたち!! 人んちの畑でなにしようってんだいっ!?」


 そこには、人型の巨大トカゲ婆さんがクワを持って立ちふさがっていた。


「素敵な畑ですね。よく肥えた土地だ」


 魔王様はうっとりとした目で畑と土地を褒めた。婆さんは、自分が褒められたわけでもないのに、あら? なんて緑色の顔を赤くさせている。


「飢饉の時に踏ん張ったからね。もうこんな土地は他にはないかもしれないよ」

「あのっ。飢饉とおっしゃいましたよね? もしよろしければ、この十六年の間になにがあったか話してもらえませんか? お礼と言ってはなんですが、毒ヘビとこのクマの毛皮を差し上げましょう」

「ジャスティス!? それはおれたちの全財産だぞ?」


 いやー、魔王様、お人好しが炸裂しちゃったわー。いや、でも、なーんとなくわかるんだけどね。この山はきっと、婆さんちのもんだってことくらい。ってことは、この毒ヘビもクマも、婆さんのもの。勝手に狩りをしたおれたちの方に非があるってことだ。


「ふぅーん? あんたたち、いい男だけど、ワケありなようだね? 畑も褒めてもらったし。ついでに飯でも食って行くかい?」


 いや、さっきクマの生肉食ってきたばっかで――。


「いただいてもよろしいのでしょうか!?」


 ああっ!! 魔王様ダメだ。そんなキラキラと輝いた笑顔をおれ以外の人に見せないでー!!


「もちろんだよ。その代わり、あんたたちが十六年間、なにをしていたのかを教えてもらいますからね」


 いや、それはさすがにマズイのでは?


「はい。監禁されておりました。この十六年、まともにご飯さえもらうことすらかなわなかったのです」


 魔王様の言葉に胸を打たれたのか、トカゲの婆さんは家に入るよう指し示した。


「そうかい。それは大変だったねぇ。さぁ、おあがり。今日はウサギ鍋だよ。奥に爺さんがいるけどねぇ、アレは無視してくれて構わないから」


 うん? でも、ちょっと出来過ぎな話じゃないか? 魔王様にそう伝えたかったが、婆さんの歩行を助けるように手を回しているんで、言い出せずにいた。


 ああ、婆さんよ。なんてうらやましいんだ。


 つづいたら意外なことがわかるかもよ?

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