第2話 突然降りかかるピンチなのに、肝心の剣はない

「グァァァァァ」


 ドシン、ドシンと一歩ずつ踏み出す足音に、おれと魔王様は集中する。こんな場面で出てくる奴といったら、アレしかいないだろう?


「ガァァァァァッ!!」

「クマだけど、ウサギの頭もくっついているところを見ると、お食事中だったのか?」


 なんと、ちょうど腹の部分にウサギの顔がくっついていた。しかもリアルに血を流しているじゃあないか。


「すまんが、ホーンのカケラは返してもらう」


 魔王様はそう言うと、手のひらをクマの頭部に向けた。


「無益なるものよ、命短しものよ――」

「ちょっと待った、ジャスティス!!」


 突然思いついたおれは、魔王様を止めに入った。魔法を途中で遮られて、魔王様は眉をひそめておれを見る。


 まぁーた、そんなぁ。かわいい顔しちゃって。エリート魔族で腹心の部下でもあるこのおれを信じてくれよぉ。


「こいつはクマだ。つまり、食料になる。毛皮は新しいマントにも使える。でしょ?」


 簡単に灰にしちゃったら、もったいなくない?


「だが、ウサギもおるぞ?」

「いいじゃないっすか。クマウサギ鍋にしましょうよ。余った肉は干して持ち歩けるし、この洞窟なら、しばらく住むのに問題ないっしょ?」


 あくまでも、二人っきりにこだわるおれ。ここでならおれ、魔王様に煩悩をぶつけられそうな気がする。


「なるほど。一理ある。が、イカリに場所を知られているのだぞ?」

「まさかおれたちがまだここにいるなんて、想像してないんじゃないかなぁ? それに、場所を特定するのなら、ミナトを脅すと思うし」

「その件は早々に片付けなければならないが」


 もう、魔王様ってば、ほんっとうにお優しいんだからぁ。今はミナトの心配よりも、おれだけを見ろよ。


〔おれの妄想スタート〕

『さぁ、おれにだけは、本当のあなたを見せて?』

『本当の、我? 我はいつでも、そなたのことを想っておる、デルタよ』


 なんて、キャー!!

〔おれの妄想終了〕


「グァァァァ!!」

「いっけね。クマの存在を忘れるところだった」

「ではデルタ。そなたがクマを退治してくれるか?」


 は? え? いや、まさにおれこそエリート魔族であり、魔王様の腹心の部下ですけど。おれねぇ、残念ながらあんまりたいした魔法は使えないんだ。剣の腕は一端なんだけども。


「我が魔法を使えば、クマは灰になってしまう。それではそなたの役に立たないのであろう?」


 そう、そうなんですよ。って、役に立たないなんてことはありませんからぁっ!!


 なんなら森の中をキャンプしながら狩りをするのも悪かないかも?


 なんてことをグズグズ考えていたら、クマが結構近くまで来ていた。


 さぁーて、剣をどうしよっかなぁ。


 つづいていなかったら、悲劇が起きたものと思ってくれぃ。


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