城では大変なことになっていた。知らんけど

第1話 ミナトは現実を受け入れることにした

 魔王を逃す手伝いをしたということを、イカリの口から父上に告げ口された。しかたない。ぼくは父上を裏切ったんだ。でも、魔王に恩を返したかった。ホーンを折ってくれた恩を。


 怒った父上は、ぼくを部屋の中から出さないよう、特殊な魔法で鍵までかけてしまった。


 弟のイカリに嫌われていることは前から気づいていたけれど、こんなのはあんまりだ。


 魔王だって、ぼくのためにホーンを折ってくれたのに、ご飯もあげていなかっただなんて、とても不憫だと思った。


 父上は、ぼくに使ったホーンの残りを持っている。そのわずかなものは、イカリに奪われてしまったけれど、どうやら魔王が回収してくれたらしい。


 魔王はもっと、怖い存在なのだと思っていた。ぼくたちの敵なのだと。


 けれど、初めて見た魔王は、艶やかな長い黒髪に白い肌をしていて、とても神秘的な美しさを醸し出していた。


 あんなに美しい人は、この城でも見たことがない。


 また、会えるんだよね?


 ぼくの体に流れるホーンのカケラを奪うために。


 だからそれまで、この気持ちは誰にも言わないでおかなきゃ。魔王に迷惑がかかってしまうから。


 だけど、現実は甘くはなくて。


「おい、ミナト。起きてるんだろ?」

「イカリ。なんの用?」


 どうやら外からはドアが開くらしかった。


「お前のその超能力で、今魔王がどこにいるのかを教えてくれよ?」

「どうして?」


 そんなことをすれば、ぼくの寿命が縮んでしまうと知っていて、わざとそんなことを言うのか?


「健康なぼくには、父上が魔王討伐のチャンスを与えてくれたんだ。心配しなくても、お前の秘密は守っていてやるよ」

「秘密? なんのこと?」

「へん。魔王だよ。そのうちお前の体の中のホーンを奪いに来るんだろ? そんなこと、父上が知ったら、お前はすぐに魔王のエサにされちまうぜ。だから、そのことだけは黙っていてやったんだ」


 交換条件、というわけか。だが、そんなことぐらいで口を割るぼくじゃない。


 そんなぼくへと、イカリが間合いを詰めてくる。


「な、なにを!?」

「大人しく言うことを聞いていれば、痛い目にあわずにすんだのにな。オニイサマ」


 だめだ。動けない。けど、どうして?


 混乱するぼくの右腕を捲り上げたイカリは、なんの躊躇もせずに膝でぼくの腕を折った。


 つづいたら、あの人に会えるのかな? ってことは、つづくんだろうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る