第4話 ミナトは物事の先読みができる

「断る、と言ったら?」


 魔王様は、大層迫力のある声でお答えになられた。そうだよなぁ。さすがにこれは、断るべきだよなぁ。


「ふん。そんなのお見通しだっ。お前たち、魔王のホーンを奪えっ!! 上手くできたら褒美をやるぞ」


 坊主ががパチンと指を鳴らせば、奥からかつて仲間だった魔族の下っぱがぞろぞろとあらわれた。


 なるほど。数で勝負ってわけか。だがな、このお方は魔王様だ。その椅子は剥奪されちまったが、魔力も今は封じられてはいるが、腐っても魔王様なんだっ!! 下っぱ相手に負けるかよぅ!!


「ヒェッヒェッヒェッ!! 魔王様よう。まーだ生きていたんですかい」

「おれたち、あんたによくしてもらったのに、悪く思わないでくださいね」

「なにしろ、新しい王様は魔王様よりも残虐な性格をしているからねぇ」


 なんだって?


 たしかに、魔王様は平穏を愛し、魔族たちが食うに困らないよう、農地開拓も進めてきた。戦があれば、止めに入ったし、みんなを平等に扱ってくれた。だというのに、その魔王様を裏切るって言うのか!?


「だってさぁ、おれたち魔族だもんよ。そりゃあ、清潔な大地よりも血生臭い方が好きなことくらい、忘れてないでしょ?」


 言うなり、魔族たちが次々とスライム状に変化して、溶け合ってゆく。やがて形を成したのは、見たこともない巨大な魔族だった。


「うわ。キッモ。こいつらにはな、余っていたお前のホーンを煎じて飲ませたんだ。だから合体するし、お前よりも強くなれるんだ」


 坊主ー!! なんてことをしてくれるんだぁーっ!! って、あれ? ってことは、渡したホーンはまだ残ってるってことか?


「なぁ? こいつらにホーンの残りを飲ませるくらいなら、お前が飲めばよかったんじゃないのか?」


 おれが言うと、坊主はふん、と鼻を鳴らした。


「ぼくは兄様のお下がりなんてごめんだね。さっさとその新しい方のホーンをよこせ!! お前ら、やってしまえっ」

「ふんっ!!」


 怪物は一振りで牢を壊してしまった。なんという怪力。


 そこへ。


「魔王、その部下、目を閉じておいて!!」


 もう一人、似たような顔の坊主があらわれたと思ったら、いきなり指図しやがった。が、その辺おれたちは素直だ。目を閉じた先で、怪物と生意気な小娘が悲鳴をあげているのが聞こえてくる。


「ちょっと、ミナトのバカっ!! なんてことするんだっ!?」

「大丈夫。ただの唐辛子スプレーだから。さ、魔王たち、ぼくの後に着いて来て!!」

「その前に。そなたらが吸収したホーンのカケラを回収する」


 そう言うと、魔王様は手のひらを怪物に向けた。すると、怪物の体が光って、ホーンのカケラと見られるものが魔王様の手のひらに吸収されてゆく。


「おおっ!! 魔王様のホーンがほんのちょっぴりだが、復活したぞっ!!」


〔おれの妄想スタート〕

『デルタよ、これまで我のためによく頑張ってくれた。これからは、我ら二人で共に手を取り合い戦い抜こう』

『魔王様っ!!』


 こうしておれたち二人は永遠に仲良く暮らしましたとさ。

〔おれの妄想緊急事態により強制停止〕


 なんてことを考えている場合ではないっ!!


「さ、早く!! ぼく、抜け道を知っているんです」


 ……うん。多分その抜け道は魔王様が作ったものなので、おれも知ってるやつだと思う。


「それには及ばん。目くらましとはいえ、世話になったな。だが、我らを脱獄させるということは、そなたが罪に問われるということ。ならば、自力で脱獄しよう」

「え?」


 ミナト少年(ちなみに、ミナトの漢字は『港』って書くんだぜ。という雑学)が驚きの声をあげるまでもなく。


 魔王様の御髪は黒々と輝きを増して、城壁を一撃で壊してしまった。え? もしかして、脱獄しようと思ったら、いつでもできたってこと?


「魔王っ!!」

「さらばだ少年。今度会う時は、必ずやそなたの体の中のホーンを返してもらう。そして、今度こそユウキを倒す」

「魔王!! ホーンのカケラは、城外にも持ち出されているはず」

「さらばだ」


 そう言うと、魔王様はおれの体を引き寄せ、マントの中にくるんだ。内心では乙女のような悲鳴をあげているところなのだが、それどころではない。


 暗転。


 後に、砂埃が舞う。


「おお、なんてことだ……」


 魔王様の悲しい咆哮が、荒れ果てた大地に響き渡る。


 あんなに肥えた大地が、たったの十六年でこんなにも変わり果ててしまうなんて。


 おれたちは力なくうなだれることしかできなかった。


 悲しみはつづくが、そう悪いことばかりでもないぜ。つまり、つづくってことさ。


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