変わりゆく関係性

「どういうことですか、お父様」


「もうお前を外に出すことは出来ない」

あれから数日経ち、唐突に父から呼び出された。


「学校を卒業したら、お前はとある貴族の元へと嫁がせる。幸いにも持参金などなくともいいと言ってもらえた。だから余計な虫がつくと困るのだ」


「だからと言って外出なしだなんて、横暴です!」

フローラは声を荒げ、反発した。


「ギルドなどという所に行き、冒険者登録をしたと聞いたが。まさか本気でなるつもりか?」


「??!!」

どこで知ったのか。


父はそんなところに寄り付くことはしないし、侯爵家の者が近づくようなこともない。


「ギルドの冒険者が教えてくれた。情報量として、だいぶお金は取られたがな」

フローラは口元を押さえ、驚きに声も出ない。


話したのはきっとライカの知り合いの冒険者たちだろう。


まさかライカを裏切るとは。




「赤毛の騎士のせいだとは聞いた。身分の低い者にまんまと誑かされおって、ローズマリー家の恥さらしになるところだったのだぞ。その男もどうせお前を騙して、金を巻き上げるつもりだったのだろう」


「彼はそんな人ではありません!」


「聞けば子爵位の者で、しかも隣国からの亡命者ではないか。王家の護衛騎士だというが、随分禄でもない者を雇っているものだ。王家に抗議の手紙を出す。だからお前は大人しくしていろ」


「そんな事……!」

そんな事をされてはライカに迷惑が掛かってしまう。


「お止めください、お父様。私が頼んだ事なのです。ライカ様は関係ありません」


「駄目だ。それではこちらも溜飲を下げることは出来ない。謝罪と処罰を求める」


「どうか、それだけはおやめください。彼とももうお話しません。お父様の言う嫁ぎ先にも黙っていきます。剣ももう降りません、だから」

自分のせいでライカのこれまでの地位や、頑張りがなくなるのは嫌だ。


侯爵である父からの言葉は、いくらティタンでも押さえつけることは出来ないだろう。




「今の言葉、忘れるなよ」

「はい、ありがとうございます」


フローラは頭を下げた。


涙をこらえることは出来なかった。





フローラは学校を休んだ。

来ても授業が終わると早々に帰ってしまい、ミューズとメィリィと話すこともない。


「何かあったのかしら」

「具合が悪いのですかねぇ、心配ですぅ」

ミューズとメィリィは気になって、授業に身が入らない。


ライカもその様子を見て。眉を顰めている。




「マオ、調査をお願いできるか?」

「勿論なのです」

ティタンの命令でマオがすぐに調査に入る。








「俺のせいか……?」

ライカは拳を握り、マオからの報告を聞いて愕然となった。


「存外ローズマリー侯爵は頭の固い男だ。だが、ここまでフローラ嬢を押さえつけていたとは知らなかった」


ティタンも剣の道を反対するくらいはするだろうと考えていた。

それを後押しする王家に苦情を申し立てるまでも想定し、もしもそういうのが来たら、兄に対応してくれるよう話をしていた。


王太子であり、ティタンの兄であるエリックもフローラのような貴族出身のの女騎士を欲していたからだ。


どうしても男性騎士では同行できない場もあり、その間護衛が離れれば危険も増す。


そういう場で女性騎士は重宝するし、貴族として礼節やマナーを学んでいるものならば、要人のお守りも任せやすい。


アドガルムではそう言った女性騎士や術師が少ないのだ。




フローラはその数少ない騎士として密かに活躍を期待していた。

腕前も申し分ないし、女性の新たな生きる道を示すものとしてフローラを押したいと思っていたのだ。


だが、命の危険もある。

強制することは出来ないから、今までにそういう話をフローラにしたことがない。

あくまで自発的な者を応援したいのだ。


「フローラ嬢がローズマリー侯爵を説得したいとなれば、王家も力添えはするが。現状フローラ嬢が望まねば動けないな」


ティタンは報告書にてフローラの新たな婚約者も知る。


家柄も経営も問題ない。

しかし、既に愛人をもつ相手。

領地に別宅を持っており、そこに愛人を住まわせている。


フローラには女主人として領地と屋敷を守らせたいようだ。




どう考えてもフローラが幸せになる要素はない。





それなのに提出された婚約届の書類には、フローラの直筆のサインがあった。


彼女がこれに了承したという事だ。


「せめて話がしたいです」

ライカもこんな報告書に納得していない。





「フローラ嬢を追い詰めたのはこちらも非があるからな。何とかしよう」

ティタンも頷いた。

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