ギルド
それからはフローラは家で自主トレをし、ミューズの屋敷で訓練をさせてもらえた。
時折、ルドとライカの手合わせも見せてもらえたが、まるでレベルが違くて驚いた。
いつかはあんなレベルになれるだろうかと、夢見てしまう。
「今度もし良ければギルド登録に行きませんか?」
ライカの言葉に気持ちがワクワクする。
話には聞いていたが初めてのギルドはどのようなところか。
中に入った事もないので想像もつかない。
登録だけではあるが、家のものに見つかるのは困るので、動きやすく、地味な格好をする。
こういう時に帽子やフードは便利だ。
初めてのギルドは思ったよりは綺麗なところであった。
荒くれ者や、もう少し怖いイメージがあったのだが、良識的な雰囲気でホッとする。
「職安のようなものです。魔獣と戦うだけではなく薬草などの素材採取の依頼や旅路の護衛など、買い物代行などもあったりしますよ」
割と仕事内容は多種多様だ。
貴族であることを伏せ、フローラも個人で登録をする。
貰ったギルドカードは最低ランクからのスタートだが、新たな生き方を見つけられ、興奮が止まらない。
感慨深くカードを見るフローラをライカは優しく見つめていた。
「おっ、ライカ。珍しいなこんなところで」
不意に声を掛けられた。
ライカの知り合いの冒険者らしい。
仲間らしき者が他に四人いて、おそらくチームなのだろう。
その内の一人の男性がライカと親しげに話している。
「久しぶりだな、バイス」
「いつもはティタン様の側にしかいないのに女の子と一緒だなんて、恋人か?」
「なっ?!」
フローラはその物言いに羞恥で顔を赤くするが、ライカが遮った。
「彼女はミューズ様のご友人で貴族だ。そういう下世話な話はやめてくれ」
「…それは失礼した」
バイスは畏まる。
動きやすいようにシャツとズボンを履いているし、手にはギルドカードを持っている。
貴族とは思わなかったのだろう。
「でも何で貴族の女性が登録に?何か欲しいものでもあったのか?」
依頼者も身元をはっきりさせるため、登録は必要になる。
そういった兼ね合いだと思われたようだ。
「いや、こちらのフローラ様が冒険者になる手伝いをしているんだ」
「……何で?」
貴族の令嬢がおよそする必要のない事だ。
「いずれフローラ様と共にダンジョンに行くつもりだ。会った時はよろしくな」
「待てよ、お前、護衛騎士を辞めたのか?ならば俺達のチームに入れよ!」
ライカは首を振って否定する。
「そうじゃない、慣れるまで一緒に行くだけだ。では、俺はフローラ様を送るからまたな」
「ライカ、いつもと違くない?」
声を掛けてきたのは冒険者パーティの一人の女性だ。
「いつももっとぶっきらぼうなくせにそんな改まった口調で。何だかおかしいの」
親しみのある話し方にフローラは少しだけモヤッとした。
自分より親しみも付き合いの長さもあるのだろうけど、それでも何だか嫌な気持ちになる。
「ロミ、彼女は特別に大事な人だ。そりゃあお前達と話す時とは違い、口調も態度も変える。同じ扱いをするわけがない」
(大事な人!)
その言葉にフローラはびっくりするがバイスの言葉を聞いて、誤解に気づく。
「貴族様相手に普通はため口何てしねぇよ。当然だろ?」
それはそうだ。
浮かれて変な声を出さなくて良かったとホッとする。
「とにかく失礼する、行きましょうフローラ様」
バイスの言葉に特に反論することなく、ライカは言った。
ロミはむくれていたが、ライカは話しかけることなくフローラの背に手を回して帰宅を促す。
「お忍びだからくれぐれも周囲に言いふらすなよ。もしも言うようなことがあれば容赦しないからな」
「わかってるさ、それじゃまたダンジョンであったらよろしくな」
人の好さそうな笑顔でバイスは手を振って見送ってくれた。
「不快な思いはされていませんか? あれが実際の冒険者達です。気さくではありますが、上等な者達ではない。俺も人の事を言えませんが、ああいう粗暴な者達ばかりが集います」
「いえ、大丈夫です。それよりライカ様はあの方たちとどのように知り合ったのですか?」
ライカは時間を気にし、少し悩む。
「もうすぐ帰宅時間となりますので、よければ次回お茶でも飲みながら話しませんか?」
「でしたら今度は私の知っているお店でいかがです?よくミューズ様とメィリィ様とお茶をしたところなのです」
「それは楽しみですね」
険の取れた顔で微笑まれ、フローラは嬉しくなる。
ここ最近、ライカの眉間の皺が取れてきており、普通の表情を見る機会が増えてきた。
「えぇ、約束ね」
だが、その約束は叶わなかった。
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