お互いの謝罪

「フローラ様!」

フローラが帰る前にとミューズとメィリィは呼び止める。


フローラの護衛騎士が止める間もなくミューズ達はフローラに抱きついた。


「最近寄り道も出来ず、寂しいですぅ」


「すぐに帰ってしまうのですから、嫌われたのかと思ったわ」

護衛騎士に離される前に、ミューズとメィリィはフローラの服の中に、手紙をそれぞれこっそりと入れる。


「ごめんなさい、最近忙しくて」


「ミューズ様、メィリィ様。申し訳ありませんが、フローラ様は忙しいのです、ここで失礼します」

フローラに早く帰るように促す騎士をティタンが一瞥する。


「話す時間もないほどか?」


「ティタン様、申し訳ありません」

この国の第二王子に言われ、恐縮してしまっている。


「忙しいのはわかっているが、少しくらいならいいだろう? 二人ともフローラ嬢に手紙を書いてきたんだ。これなら家でゆっくり読めるだろう」


「?」

先程受け取ったはずだとフローラは思ったが、二人はとても可愛い派手な手紙を渡してくれる。


「手紙には何も変なことなど書いていない。こちらは仮に侯爵殿に読まれても大丈夫だ。侯爵殿が娘の友人からの手紙まで検閲しないと思うが、念のためにな」

その言葉にハッとした。


最初に隠し入れられた手紙は見せられないものの方か。


フローラは見つからないように落とさないように、最初の手紙をこっそり仕舞う。


「侯爵様はそのような事はなさりません」

護衛の騎士はティタンと話す方に集中しており、フローラの挙動には気づいていない。


「そうだといいのだがな……フローラ嬢、手間を取らせた。手紙の返事を待ってるぞ」

ミューズとメィリィが手を振って見送ってくれる。


今日のミューズの護衛騎士はルドであった。


ライカに会えない事を密かに残念に思い、その場を去る。






家に帰り、手紙を受け取ったことを護衛騎士のジャックから聞いたローズマリー侯爵のダンテはすぐさまフローラに手紙を見せるよう、強要した。


その様子にジャックは苦い顔をする、ティタンが言った懸念は本当だったのだ。


「特に怪しい様子はないか」

それだけ言って謝罪も何もなく、突き返される。


フローラも何も言わず、開封された手紙を手にした。


「申し訳ありませんでした、フローラ様」


「いいのよ、あなたが悪いわけではないわ」

ジャックは仕事をしただけだしと、フローラは目を合わせることなく部屋へ戻る。


ようやく一人になり、ベッドへ横になった。


渡された表向きの手紙に目を通していく。


当たり障りのない普通の話がそこには書いてあって、また一緒にお茶をしようなどが書かれていた。


そして服の中に入れられた小さな手紙の方には、フローラが望めば助けに行くと書いてあった。


封筒の中には少し乱暴な字の手紙も出てくる。


『今夜話がしたい。窓を開けて待っててくれ』

と名もなく書かれたそれは、明らかにライカからだろう。


「夜にここに来るってこと?」

フローラは顔を赤くし、わたわたと部屋の片づけと綺麗な夜着の用意を始めた。





もはや待ち疲れてうとうととしていた深夜に、コンコンと窓を叩く音が聞こえる。


フローラは急いで立ち上がり、窓辺へ寄る。


宙に浮く人物はライカだろうか。


全身真っ黒で誰かわからない。


ふわりと部屋に降り立つと、黒い布を顔だけ取り払う。





「驚かせてしまいすみません、俺です」

声から察するにライカで合っていた。


「良かった、ライカ様ですね。髪も見えないから誰かと思いました」


「赤毛は目立ちますからね。そのせいでフローラ様にご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げるライカにフローラも謝罪する。


「いえ、私がいけなかったのです。私が余計な頼みごとをしたせいで、ライカ様達にも迷惑をかけてしまいました。なんとお詫びをしていいかわかりません」


「迷惑など掛けられていません、俺が好きでしたことです。それに俺はあなたの力になりたかったのだから、望んでしたことです。後悔はありません」

ライカは跪き、悔やむ声を出す。


「それにギルドで迂闊にもあなたの名前を出してしまったから、このような事になってしまった。信頼できる者だと思ったのに、バイスの野郎……ぜってぇ許さねぇ!」

ぎっと目つきを鋭くさせて、口汚くいう言葉にびっくりする。


こんな一面はフローラは見たことがなかった。


「それがあなたの本来の言葉使い?」


「! 失礼いたしました」

ライカは口元を押さえるが、フローラは寧ろライカに近づけたようで嬉しかった。


「いえ、以前ロミさんが言っていたのはそういう事なのですね。あなたを知れたようで嬉しいです」

素直にそう言うとライカは複雑そうだ。


「そうですか? ルドのような丁寧な口調の方が、フローラ様には好まれるかと思っていたのですが」


最初に剣の指南を頼まれたのはルドだ。


だからルドの方が好みなのだろうと単純に思っていた。


「いいえ、普段のライカ様の口調もいいと思います。自然体でとてもいいですわ」

そうは言われても、さすがに令嬢相手にこの口調で話していくわけにはいかない。


ライカは咳ばらいをし、気持ちを切り替える。


「フローラ様からの謝罪はもう結構です。そもそもあなたが謝罪することなど、一つもない。そしてこの状況を生み出してしまった事を詫びる為、あなたが自由を得るために、本心を聞きに来ました。ぜひお話をお聞かせください」

改まったライカにフローラはきゅっと表情を引き締める。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る