デート的な
おすすめされた店はシックなカフェであった。
ライカは店のドアを開け、エスコートする。
「このような店、初めて入りました」
「俺もです、緊張しますね」
案内された席に着き、ライカはメニューを見て、また眉間に皺を寄せている。
「どうされましたか?」
「いえ、どれも聞きなじみのないメニューでどれを選べばいいか悩んでしまったのです」
もしかして今までの仏頂面はそういう理由なのだろうか。
「悩んでいるとは思えない程、眉間に皺が寄っています。傍目には怒っているようにしか見えませんでしたわ」
「本当ですか?」
ライカは額に手を当てため息をつく。
「ルドにもよく指摘されるのですが、なかなか直せず…誤解を招いてしまってすみません」
眉間の皺を伸ばすようにライカは顔をマッサージしている。
「けして怒ってるわけではないです、寧ろフローラ様とこうして話せるのを楽しみにしていました」
ライカの言葉に驚く。
(私と話すのを楽しみにしてたなんて…悪い気はしないわね)
そんな風に異性に言われたことはなかった。
「フローラ様はとても気高く美しい女性だ。信念を持ち、女性には難しいとされる剣の道を目指す、その気持ちを応援したいのです」
真っすぐにフローラを見つめるライカの目は真剣だ。
ライカはずいぶんフローラを評価してくれている。
まるで好意を持ってくれているかのような素振りに、フローラは錯覚してしまいそうだ。
「ですので、剣の事ならなんなりと、遠慮なく俺に相談してください。ぜひ今後もお手伝いをさせて頂きたいです」
ライカの締めくくった言葉に、フローラは肩の力が抜ける。
彼の関心は剣の事なのだ。
フローラ個人ではない。
「ありがとうございます。ぜひ頼りにさせて頂きますわ」
にこりと笑顔を見せれば、ライカも嬉しそうだ。
ライカは終始ニヤけそうになる顔を気合で押さえていた。
キレイだと憧れていた女性とこうしてお茶をしに来られるとは、天にも登る気持ちだ。
だがそんな下心を表面に出すわけにかいかない。
故に
不機嫌そうに見えてもぐっと眉間に皺を寄せ、耐えていた。
すぐにからかってくるマオやチェルシーとも、ほわほわした雰囲気を持つミューズとは違い、フローラは毅然とした美しさを持っていた。
長身で引き締まった体はストイックなまでに己を律することが出来る証だ。
そして自分の生き方に疑問を抱き、これからどうしたらいいのか、自分の頭で考え、こうして行動している。
親に敷かれたレールの上以外に自分の生きる道を模索しているのだ。
淑女として生きてきたフローラにとって、それがどんな辛く険しい道でも頑張りたいと。
そんなフローラを応援したく、ライカは出来る限りの事をすると誓った。
現実を見て諦めてもいい。
本当に剣の道を選んだとしても、生き残れる力を得られるように助力するつもりだ。
ここまで異性に心を砕くのは初めてではあったが、ティタンやエリックを見て、その気持ちがなんなのかは自然とわかっていた。
目ざといマオ達にうざい程また絡まれてしまったが。こうして良いお店を教えてくれたのは感謝している。
誘い方が不器用なのはライカ自身も感じていた。
未婚の女性の手に勝手に触れることがどういう意味を持っているかも知っている。
しかし、断られる事が怖くて否定の言葉を聞くより先に、行動で示してしまった。
戸惑いは感じられたが、嫌がられることはなかったので安堵した。
先程あった元婚約者の男もその連れも、フローラが止めなければ、うっかり切り捨ててしまったかもしれない。
失礼過ぎる二人について主君であるティタンから釘をさしてもらってもいいかもしれない。
使えるものは使わせてもらうのもありだ。
自分では身分が低すぎて、説得力に欠ける。
だから子爵家である自分が想っても、フローラとどうにかなることはないとも理解していた。
王族付きの護衛騎士とはいえ、あちらの家が許すことはないだろう。
だからせめてフローラの役に立てばと、思うばかりだ。
フローラの為に剣について教えることが、女性を喜ばせることも、かける言葉もわからないライカに出来る精一杯だ。
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