(二)

「今日の授業、難しかったねー」


「そうだね。 でも、私は面白かったな。 ジェンダーについて色々と知ることが出来たし」


「麗香は頭がいいからね。 私なんてさっぱりだったよ。 それに、正直私には関係ないかなって思っちゃって」


 そう言いながら麻琴は短い髪の毛をくるくると巻く。 やはり彼女は“普通”だ。私は改めてそう感じざるを得なかった。  



 私は、 男の子も女の子も好きになる、いわゆるバイセクシュアルである。 それをはっきり自覚したのは中学二年生の頃だった。中学一年生の時、半年間だけ男の子とお付き合いしたことがある。しかし彼と別れてすぐ、中学二年生の春、一年生の時から仲の良かった親友のことが好きということに気が付いてしまった。女の子のことが好きになるということに違和感を覚えていなかった私は彼女に告白することにした。


「ねえねえ、私のこと、 どう思ってる?」


 そう聞くと、彼女は困ったような表情で


「え、友達だと思ってるよ」


 と答える。私は勇気をもって告白する。 そう、 異性に告白するときと同じように。


「ずっと前から好きでした。私と、付き合ってくれませんか?」


「……ごめん。その気持ちには応えられない」

 

 私は焦った。ただ、彼女に嫌われそうという今の状況を察知して言葉を繋ぐ。


「待って!そういうつもりで言った訳じゃないの。だから、友達で居て欲しいの」


「……正直、気持ち悪いよ」




 気持ち悪い。




 彼女ははっきりそう言って私のもとを去り、もう二度と一緒に話すことはなかった。 家に帰っても、彼女から言われた「気持ち悪い」は、私の胸に巣食っていた。



 確かに昔から違和感はあった。何故おとぎ話は王子様とお姫様しか結ばれないのか。何故お姫様とお姫様が結ばれる話が一つもないのか。不思議で仕方がなかった。一度だけ、母に尋ねたことがある。しかしその時、母は困った顔をして、


「おとぎ話はそういうものなのよ。お姫様とお姫様が結ばれるなんて有り得ないの」


 と言った。それ以来、似たようなことを聞こうと思っても聞いてくれるなという態度を母から感じ、なんとなく聞きそびれていた。 その為に、若干の違和感はあったものの、自分が人とは違うと思っていなかった。ただ、 とっさに出た


「そういうことじゃない」


 は、何だったのだろうか。違和感はなかったはずなのに、彼女が拒絶していると察した瞬間出てきた言葉。本能的なものなのだろうか。そこは今でもわからない。……分かるはずもない。



 そんな中学生時代を過ごしたから、私はもう、女の子を好きになるのは諦めようと思った。それなのに、 麻琴の存在はそれを許してはくれなかった。


 

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