(一)

 いつもと同じ朝食。 いつもと同じ制服。 いつもと同じ通学路。 そしていつもと同じ、 私の髪色。


「おはよー!今日も髪の毛きれいだねー。 私の黒髪くせっ毛と交換して欲しいよ」


 これもまた、いつもと同じ会話。 彼女は私の唯一の友達、 佐々木麻琴。 麻琴は自分の髪型を嫌っているけれど、 私は彼女のショートヘアと中性的な容姿がマッチしていて素敵だと思う。 まあ、これを言うと麗香の方が素敵だと一蹴されてしまうのだけれど。これもまた、いつもと同じ会話。


「私の髪なんて、いいことないよ。 何度も言ってるけど、私にとってはコンプレックスだしこれでいじめられてきたんだから」


そう言っても麻琴はにやにやするばかりで取り合ってくれない。


 私は生まれつき、髪が白色に近い金色をしている。と言ってもハーフではなく、アルビノという、日本人では二万人に一人がなる、人よりもメラニン色素が少なく髪が白かったり目が青かったりという特徴があるものだ。 医学的には先天的白皮症と呼ぶらしい。これらは私が死に物狂いで調べた情報なので、小学生には伝わるはずがない。だから、小学生の頃はこの髪色のせいでよくいじめられていた。


 中学校は髪色こそ説明すればあまりいじめられることもなかったが、それ以外のことで疎まれる存在となってしまった。正直、あまり思い出したくないのでこれには蓋をすることにしよう。



 とにかく人と違うことが多い私は、自分自身にも違和感がある。自分が受け入れられていないことを他人が受け入れられるはずがない。中学生の時に身に着けたこの自己防衛ともいえる思考から、高校では友達を作らないと決めていた。しかしその壁を簡単に壊してしまったのが麻琴だった。



「その髪色、超かわいいね!素敵だな」


 弾けるような笑顔で言う彼女の言葉に私は驚きを隠せなかった。 大体私のことを初めて見る人は、


「ハーフなの?」


 とか、


「染めてるの?」


 とか、酷いときには


「黒に戻しなよ。 イキってんの?」


 とまで言ってくる。確かに大勢の人とは違うけれど、だからと言って異端者には何を言っていいと言う訳ではない。分かっているのに悔しく思ってしまうので、感情を消すことだけを考えていた。そんな私にとって、彼女の一言は冷水をかけられたような衝撃があった。この髪色を、素敵と言ってくれる人がいる。



 この時、私は彼女となら友達になれる。友達に。そう思ってしまった。



 私には麻琴のすべてが羨ましかった。中性的で整った容姿、綺麗な黒髪ショート。そして何より、彼女が“普通”であること。辞書で何度も調べて覚えてしまった意味。



「普通」とは、特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。 それが当たり前であること。また、そのさま。

 


 辞書で引いたところで、私の中での“普通”の意味は確立しない。でも、辞書の意味を借りれば、彼女は普通で、私は異常であるということになる。そして、世間の目も辞書通りだ。


 私は“普通”じゃない。でも“普通”である彼女と一緒にいることで、私も“普通”の存在であると感じることができる。たとえ、それが錯覚だとしても、私には嬉しかった。














私は彼女が好きだ。

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