第100話 気遣いは大事

 その後、ジュースを飲んだら……。


「おっと、段々混んできたな」


「流石にお昼過ぎだしね」


「そういや、二時近くになってるな」


 お昼ご飯を食べ終わった人達が、押し寄せているのだろう。

 ウォータースライダーや、プールが人で埋まっていく。


「どうする? まだ泳ぐか?」


「う、うーん、どうしよう? 多分、まだ二人は遊びたいだろうし」


 なんだ? 葉月の様子が変だな……身をよじっている。

 何か……なるほど、そういうことか。

 どうする? ……あっ、あれを持ってきてたはずだ。


「とりあえず、フードコートに行くか? もう少し休憩しに」


「へっ? そ、そうだね。じゃあ、一回更衣室に行こ。ついでに、スマホに連絡ないか確認するし。もしかしたら、桜から連絡来てるかも」


「決まりだな」


 そうと決まった俺達は、急いで更衣室に向かうのだった。





 ◇


 ……いけない、いけない。


 更衣室に戻ってきた私は、鏡の前で頬を軽く叩く。


「……野崎君、気づいてないよね?」


 あの時、人が集まってきて……男の人の視線が気になってしまった。

 普段なら平気だけど、流石に水着姿は恥ずかしいし……。

 やっぱり、男の人は大きい胸が好きなのかな?


「野崎君はどうなんだろ?」


 そういえば、そういうのって聞いたことない。

 というか、女の子の好みさえ知らないや。


「……どうしよう? 私みたいなタイプ嫌いだったら……」


 でも、嫌いだったら付き合わないよね?

 いや、野崎君は優しいし、小説のためってこともあるかも。


「胸が当たったときは、わかりやすく動揺してたよね?」


 それってどうなのかな? 良かったのかな?

 私的には、意識させるつもりで頑張ってみたんだけど……。

 そりゃ、告白とかすれば良いんだけど……無理無理!


「うぅー、したことないし……あっ、野崎君を待たせちゃう」


 コインロッカーを開けて、財布を取り出して……。


「あちゃー、上着とか持ってくればよかったし」


 ワンピースできちゃったから、持ってきてないや。

 財布も入れられないし、胸を隠すことも出来ない。


「プールなんか来るの久々だったしなぁ」


 野崎君に可愛いって思ってもらえることしか考えてなかった。


「……何を言ってんだろ? と、とにかく、待たせちゃ悪いよね」


 結局、私はスマホだけ持って、更衣室を出るのだった。


 そして、入り口の近くで野崎君を発見する。


「ご、ごめんね、待たせちゃって……」


「い、いや、大して待ってないから。そ、それより、これでも着てくれ」


 その手には、薄手のパーカーがある。

 まさしく、私が欲しかったものだ。


「……どうして?」


「と、特に理由はないけど……ジロジロと見られるのは恥ずかしいかなと。いらないなら、別に——うわっ!?」


 私は思わず、野崎君の腕にしがみつく。

 さっきまでの行動からするに、気づいていたに違いない。

 その気遣いが、とっても嬉しかったから。


「ううん! ありがとね!」


「わ、わかったから! 離れてくれ!」


「ふふふ〜照れてるの?」


「はぁ? 照れてないし……ほ、ほら、行こうぜ」


 そう言い、空いてる手で頬を掻く。


 ……少なくとも、嫌いってことはなさそう。


 えへへ、嬉しいな。


 さっきまでの不安は何処へやら、私はご機嫌で野崎君と歩くのでした。

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