第94話 遊園地その六

 ……何か、盛大に間違えた気がする。


「……葉月さんや」


「どうしたのかな? 野崎君や」


「……俺、何かやっちゃった?」


「う、うーん……まあね。あの人、私の知り合いの人だったし


「ァァァァ! やっぱり!? すまん! 謝ってくる!」


「い、いいから! 私も悪かったし!」


 葉月から手を繋がれ、ふと考え直す。

 そういや、知り合いはいいとして、どうして拓也はついて行ったんだ?


「というか、恵梨香は?」


「……あぁ! もう! とりあえず、こっち来て!」


「お、おい!?」


 そのまま引っ張られて、プール近くのベンチに座らされる。


「いい? あの人は、桜の……ど、どこ見てんのよ?」


「い、いや……すみません」


 目の前に立たれると、谷間が目の前にあるし……鼻血でそう。

 改めて見ると凄い……大きいのに垂れてないし、ものすごく柔らかそうだ。


「あ、謝ることないし。その為に着たんだし」


「ん? そのため?」


「ほ、ほら! ラブコメイベント! と、とにかく、ひとまず隣に座るね」


 そうして、説明をしてくれた。

 あの男性は、葉月の友人である桜さんのお兄さんということ。

 たまたま桜さんが来ていたので、下二人を預かると言ってくれたらしい。

 先程は、俺達が来るまで葉月の男避けとしていてくれたと。


「とまあ、そんな感じなわけ」


「いや、それはいいとして……どうして預かるって話に?」


「えっと……さ、桜にはラブコメイベントのこと言ってなくて……だから、私達のことを……そういうアレだと思ってるのよ」


「そういうアレ?」


「もう! 付き合ってると思ってるの!」


「……そうなの? それで良いのか?」


「前も言ったでしょ? 私、結構モテるから。面倒だから、そのままにしとくし」


「そういえば言ってたな。ただ、その相手が俺って……」


「し、仕方ないじゃん! ラブコメイベントをやるのは野崎君だけだし……」


「まあ、それもそうか。というか……俺、めちゃくちゃカッコ悪いじゃん」


 良い人だったのに、ナンパ者扱いしてしまった。

 むしろお似合いで、俺の方が邪魔者みたいだった。

 俺と並んでるより、よっぽど。


「そ。そんなことないし!」


「そうかなぁ」


「だって、守ってくれたじゃん」


「いや、あれは知り合いだったし……」


「でも、あの時は知らなかったでしょ? つまり、他の場面だったとしても、ああしてくれたってことだと思うし」


「……それは確かに」


 あの時は無我夢中で、そんなことは考えてなかった。

 とにかく、助けなきゃと思って。


「わ、私が本当に困ってたら助けてくれるんでしょ?」


「も、もちろん」


「だったら、かっこ悪くなんかないし。その……かっこよかったから」


 葉月がもじもじしながら……そう呟いた。


「……へっ?」


「だ、だから! 自信を持っていいの! ほら! 泳ぎに行こ!」


「ちょっ!?」


 再び手を握られ、プールサイドを歩かされる。


 不思議なもので、さっきまでの憂鬱は消えた。


 葉月が……好きな女の子が、カッコいいって言ってくれたから。


 いやはや、我ながら単純である。



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