第93話 遊園地その五
入り口に入ったところで、葉月と恵梨香と別れ……。
俺は拓也を連れて、男性用更衣室に入る。
「なあ、拓也」
「なに、にいちゃん?」
「いや、葉月から何か聞いてるか?」
「なんのこと?」
……まあ、知るわけがないよな。
そもそも、ラブコメイベントってわかってないし。
「いや、すまん」
「でも、姉ちゃん……出かける時、めちゃくちゃ楽しそうだったよ?」
「……へぇ、そうか」
その楽しさの中に、俺が含まれていると嬉しいが……含まれてるよな?
着替えを済ませたので、出て行こうとすると……。
「あっ、トイレ……その、あっち」
「いくなら行っといた方がいいぞ? 大丈夫、ここで待ってるから」
「ご、ごめん! すぐに行ってくる!」
「ゆっくりで良いぞー」
俺はスマホを出して、葉月にラインを送る。
すると、すぐに『了解〜どっちにしろ入り口付近で待ち合わせで』という返事が返ってくる。
俺は自分の小説ページを開いて、拓也が来るのを待つことにする。
……遅いな?
気がつくと、十分が経過していた。
心配だったので、トイレに向かう。
「拓也〜、平気か?」
「に、にいちゃん、ごめん! 先行ってて! 待ってると思うと……」
「ああ、そういうことか。んじゃ、入り口付近にいるからな? もし俺達がいなくても、そこから動くなよ?」
「わかったっ!」
俺が待っているとプレッシャーになるというので、ひとまず更衣室から出て行くことにする。
「さて、出たは良いが……あれ? 二人がいないぞ?」
確か、入り口付近で待ち合わせだったが……その時、よく知っている後ろ姿が目に入る。
屋外プールなので、その綺麗に染められた金髪が光り輝いている。
「……綺麗な背中……あれ?」
その綺麗な背中に見惚れそうになるが——それを無視して駆け出す!
葉月が、背の高い男性に話しかけられていたからだ。
「あっ、野崎……へっ?」
俺は葉月を庇うように、葉月と男の間に立つ。
髪も染めていて、如何にもナンパしそうな大学生風の男だ。
ガタイもよく、顔もイケメン……こ、怖いが、何とかしないと。
「お、俺の彼女に、何か用ですか?」
「うん? ……なんだ、付き合ってんの?」
「ふえっ? ……の、の、野崎君!?」
「あ、あれ? ……どういうことだ?」
振り返ると、顔が真っ赤な葉月がいる。
そして、同時に……その水着姿が目に入る。
どうしたって目に入る、綺麗な谷間。
綺麗なお腹周りに、すらっとした足。
水色のビキニを着た姿が、俺の脳に直撃する。
「えっ、あっ、あれ……」
だめだ、脳内の処理が追いつかない。
全身の血流が蠢いている。
「あぅぅ……」
「ははっ! そういうことか! いや、悪い悪い。おっと、弟の方も来たか」
振り返ると、拓也がこちらに向かってくる。
「あっ! 悟さんだっ! どうしてここにいるんですか?」
「よう、拓也。とりあえず、お前は俺についてこい」
「えっと……わかった!」
俺と葉月を見た後、拓也はその男についていく。
そして、二人は去っていく。
葉月は、それを止めもしない。
えっと……一体、何がどうなった?
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