第90話 遊園地その二

 ここの遊園地の良いところは、良い意味で家族向けだ。


 そこまで激しいアトラクションがないので、子供からお年寄りまで楽しめる。


 年齢制限や身長制限が緩く、その分緩やかな遊具が多い。


 まさしく、遊園地初心者向けとでもいったところだ。


 無論、遊園地が初めての二人には、十分にスリルがあるらしい。


「タコだっ!あれから乗る!」


「うんっ!」


「もっと近くで見ようぜ!」


 結局、何を乗るか決めずに、遊園地内を散策することにした。

 さっきからテンションが高い二人は、あれを第一の乗り物に決めたらしい。


「うわぁ……意外と高いわね。あれって子供用なのよね?」


「あれ? 葉月は高いところダメなのか?」


「うっ……実は、そうだったりするし」


「まじか? そりゃ、悪いことしたな」


「えっ? あっ、別に嫌とかじゃないからね? 多分、乗っちゃえば平気だし」


「ああ、そういうことか」


 すると、二人から『早く早く!』と声がかかる。

 俺と葉月は頷き、二人に駆け寄り、乗り物に乗るのだった。


「キャァァァ!」


「スゲェー!」


「きゃはは!」


「おおぉー、意外と早いな」


 高さ十メートル以上の場所を、乗り物がぐるぐると回る!

 意外にも、少しの恐怖と爽快感を与えてくる。

 そして、無事に終わると……。


「楽しかったぜ! 次々!」


「うんっ!」


「ふふん、所詮は子供用よね」


「いやいや『キャァァァ』とか言ってたから」


「う、うっさいし!」


 その後、次々とアトラクションに乗って行く。

 バイキング、コーヒーカップ……そして、メインのジェットコースターにやってくる。

 実は、俺がここを推した理由は、このジェットコースターにある。


「おお〜! ジェットコースターだァァァ! 俺、絶対これに乗る!」


「良いなぁ、お兄ちゃん……わたし、小さいから乗れない」


「そ、そうだったわ。そういう制限があったわね……どうしよ?」


「えぇー!? 俺は乗るぞ!」


「ずるいよぉ〜!」


「え、えっと……困ったし」


 俺は、葉月の肩に手を置く。


「野崎君?」


「平気だ。ほら、恵梨香、あそこの看板を見てごらん」


「ふえっ? えっと……うん!」


「俺もいく!」


 全員で看板に近づき……次第に、二人が驚きの表情に変わる。


「ねえねえ! 三歳からって書いてある! わたしでも乗れるの!?」


「おおっ! 書いてあんじゃん!」


「へっ? そうなの? ……ほんとだ、書いてある」


「なっ、平気だろ? ここなら、恵梨香でもジェットコースターに乗れるんだ」


 ここのジェットコースターは特殊で、三歳児から乗れるように設計してある。

 規模も小さく、スピードも緩やかで、安全性が高い。

 まさしく、家族用……もしくは、子供用ジェットコースターってやつだ。


「わぁーい! すごいすごい!」


「んじゃ、恵梨香! 早く乗りに行こうぜ!」


「うんっ!」


「……あ、あんた達は、二人で行きなさい。これなら保護者もいらないみたいだから」


「ん? 乗らないのか?」


「ほ、ほら、子供達だけっていうのも良い経験じゃない?」


 なるほど、一理あるな。

 自尊心とか、満足感は高いかもしれない。


「わかった。じゃあ、俺らはここのベンチから見てるから」


「「うんっ!!」」


 元気な二人は、走って受付に向かう。


「いやぁ、子供って元気だなぁ」


「……野崎君、ここのこと知ってたの?」


「うん? まあ、知ってたな。夏休みに入って色々と調べたんだけど、ここなら恵梨香も楽しめるかなって。拓也も、妹に気を使わなくて良いし」


「……そうなんだ」


「ほら、一人だけ乗れなかったら可哀想かなって。どうせなら、全員が楽しめ——イテッ!?」


 急に、背中に痛みが走る!

 ……どうやら、葉月に手のひらで叩かれたらしい。


「な、何すんだよ?」


「えへへ……良いとこあるじゃん! 野崎君、ありがとね」


「お、おう」


 その弾けるような笑顔に、それ以上何も言えなくなってしまう。


 ……この笑顔が見られたなら、痛みや苦労は安いものだ。


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