第89話 遊園地到着

 ひとまず、駅からバスに乗り、西○遊園地に向かう。


 俺達の地元からは、バスが出ているから行き帰りが楽だ。


「わぁーい! バスさんだっ!」


「おおー! すげー!」


 さっきから、二人がやたらはしゃいでいる。

 どうやら、市営のバスに乗るのは初めてらしい。

 まあ、わざわざバスに乗る機会なんて意外とないもんな。


「二人共、静かに。乗る前に約束したでしょ? 他の人もいるから、迷惑かけちゃダメって」


「はーい!」


「えぇー!? 別に良いじゃん!」


「よくないし。ここは、みんながいる場所なの」


 ……相変わらず、見た目との乖離が激しい奴。

 そういや、クラスでも……うるさいグループがいると、さり気なく話題を変えたり。

 もちろん、自分のグループでも。

 まあ、気づいたのは最近なんだが……俺もやってみるか。


「拓也、ポケモンはどうだ? どこまで進んだ?」


「えっ? えっと、今は三つ目のバッチを取って……」


「じゃあ、そろそろ最初の三匹が最終進化するころか」


「うん、今回は……」


 次第に拓也の声が落ち着き、俺にポケモンについて色々と質問をしてくる。

 すると、恵梨香と話をしていた葉月と視線が合う。

 そして、軽くウインクをされる。

 まるで『やるじゃん』とでもいうように。

 俺は恥ずかしいやら、嬉しいやらで……ニヤニヤするのを堪えるのに必死だった。






 その後、バスは走り続け……十時前に、遊園地前に到着する。


「はい、到着と。もう騒いでもいいわよ」


「よっしゃ!」


「ついたー!」


「葉月、俺はチケット買ってくるよ」


「うん、お願い」


 ひとまず、俺が全員分のチケット代を支払う。

 葉月はコミケのバイト代で、俺に返すことになっている。

 ちなみに下の二人は、おばあちゃんが出してくれたそうだ。


「おーい! 買ったぞー!」


「ほら、いくよ」


「「うんっ!!」」


 そしていよいよ、全員で遊園地へと足を踏み入れる。


「おお〜! スゲェー!」


「しゅごい!」


「へぇ、結構良さげじゃん」


「確かに。俺がきてた頃は、随分と寂れていたんだけどなぁ」


 何回か閉園の危機になっていたはず。

 でもなんだかんだで残りつつ、今回のリニューアルで人気が出たんだっけ。


「何から乗りたい? 午後はプールだから、午前中は乗り物オンリーだし」


「「何があるの!?」」


「ふふ、同じ顔してるし。ほら、あそこの看板に書いてあるから見てきなさい」


 二人が頷き、看板に駆け寄っていく。

 その隙に、俺は葉月に近づく。

 ……ずっと、言いたかったことを伝えるために。


「ん? どうしたの?」


「いや、その……洋服似合ってる……と思います」


「……へっ? あっ……今更だし。ラブコメだったら失格だね」


「い、いや、すまん。どうもタイミングがわからなかった」


 二人がいる前で言っていいのか、そもそも言うべきなのかとか。

 はぁ……こんなんだからダメなんだよなぁ。


「でも……ありがとう」


「えっ?」


「ほらいこ! 私達も乗りたいの決めないと!」


 葉月は眩しい笑顔を見せて、俺の手を引っ張る。


 それだけで俺は、既に楽しい気持ちでいっぱいだった。






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