第85話 ラブコメイベント

ひたすら焼きそばを食べる。


気がついてなかったが、どうやら腹ペコ状態だったらしい。


「うまい……んぐっ!」


「ちょっと!? ほら、お水飲んで!」


しまった! 一気に食い過ぎた!

俺は葉月から水を受け取り……喉に流し込んでいく!


「……はぁ、死ぬかと思った」


「勘弁して欲しいし」


「いや、美味いから」


「そ、そう……別にいつでも作って良いし」


「ん? なんて言った?」


「何も言ってないし。それより、ちゃんと食べないとダメだし。お昼とか、どうしてたの?」


「まあ、大体はカップ麺だな」


姉貴は仕事だし、俺は料理を作れないし。


外食するには着替えたり、風呂に入らないといけないし。


そもそも、できれば外に出たくない……これが陰キャの生態である。


「それ、ダメじゃん。あれでしょ? 作家は身体が資本とかって言ってなかった?」


「ぎくっ……い、いやぁ、それはですね……はい」


「もう、仕方ないなぁ……あっ、タイミング良い」


「うん?」


「ちょっとまってね、電話出るから。あと、スピーカーにしておくから」


そう言い、葉月がスマホをテーブルに置く。


『もしもーし? 葉月ちゃん?』


「はい? 姉貴?」


『天馬は少し黙ってなさい』


「うん、話が進まないから」


「……おう」


どうやら、ただ聞かせるためだけのスピーカーのようだ。


「はい、葉月です。お仕事中なのに、すみません」


『今は休憩してるから平気よー。こっちも、天馬がごめんね。一応、お金は置いといたんだけど』


「いえいえ、私は平気です。それでですね、さっきの話なんですけど……」


『ああ、あの件ね。ええ、できればこっちからお願いしたいくらい。でも、良いのかしら? あちらのお母さんは、良いって言ってくれたけど……』


「別に大した手間ではないので。妹は保育園ですし、弟は友達と遊びに行きますから」


『そうねぇ……じゃあ、悪いけどお願いできるかしら? きちんとバイト代は出すから』


「い、いえいえ! 悪いですよ!」


『ダメよ、そこはしっかりしないと。まあ、それは後にしましょう。とりあえず、天馬のことよろしくお願いします』


「は、はいっ、任せてください」


『それじゃあ、仕事に戻るわねー。天馬、二人きりだからって変なことしちゃダメよー?』


「するかよ!」


そこでブツッと通話が終わった。


おい!? なんて台詞を言って切るんだよ!?


「……はは……すまん」


「……二人っきりで、良いことしちゃう?」


肩肘をついて、蠱惑的な表情をする。


その際におっぱいが机に乗る……やばい。


「な、な、な……」


「ププッ!? 面白い顔! 冗談に決まってるじゃん」


「わ、わかってるし!」


「これもラブコメイベントだし。というわけで、決まったから」


「それだそれ。一体、何が決まったんだ?」


「お母さんから小百合さんに連絡してもらって、お昼ご飯を作っていいか聞いたんだ。そしたら、好きに使ってくださいって言われて。その際に連絡先を教えておいたの。それで、さっき電話が来たってわけ」


「なるほど……そういう流れか」


「それで平日は、二回くらいお昼ご飯を作りにくるから。流石に毎日は無理だし。まあ、簡単な物しか作れないけど」


「……いや、正直言って助かる」


「そう? なら良かった」


「とりあえず、お昼代は俺が払う。頼む、それくらいは払わせてくれ」


「うーん、お金は貰いたくないけど……代わりの物でも良い?」


「ああ、なんでも良いぞ」


「お昼ご飯作った後、時間がある時は野崎君の部屋にいても良い? そこで本を読んだりとか……ほら、本を買うお金ないし」


「なるほど……本を買うのは俺だから、それはそれでありか」


「じゃあ、契約成立ね」


「わかった」


マジか……これから週に二回くらい葉月が来るのか。


もちろん、飯は美味かったし……何より、葉月に会える。


ラブコメイベント以外では、どうやって会っていいのかわからなかったし。


というか……同じクラスの美少女がお昼ご飯を作りにきてくれるとか。


これ自体がラブコメイベントみたいだな。













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