第74話 アキラさんの提案
……お、落ち着け、相手はアキラさんだ。
年明けにTwitterで俺をフォローしてくれて、俺の作品を読んで面白いと言ってくれたプロ作家の方だ。
そこから、色々な小説のイロハを無料で教えてくれた。
その時はラッキーぐらいに思っていたけど、後になってから気づいた。
アキラさんは講師もやっているらしいので、本来なら授業料を支払わなければいけないと。
だけど、そんなこと言われたことないし、言ったらいらないって言われてしまった。
俺からも得るものがあるから良いと……よし、整理できた。
目の前にいるのは美人な女性である前に、俺の尊敬する師匠だ。
「ん? どうしたのかな? まずは、紅茶を飲むと良い」
「えっ? あ、ああ、いつのまに」
「今さっき君が紅茶が良いというから頼んだが……」
全然覚えてない……無理無理! いきなりは無理だって!
カップを持つ手が震えそうになる。
「ふむ、申し訳ないことをしたな」
「い、いえ! それで、話っていうのは?」
「おいおい、忘れては困るよ。私にラブコメイベントについて聞かせてもらわないと。私と君は師弟関係にあるかもしれないが、あくまでも対等な立場だ」
「そ、そうでしたね……では、これまでに起きたことをお教えします」
電話やラインでも報告しているが、とりあえず最初から話すことにした。
ギャル系の女の子に小説を書いてることがバレたこと。
その小説を気に入られたこと。
続きを書けない俺に、自分が手伝うと言いだしたこと。
そっから、ラブコメイベントにありそうなことをしてきたこと。
その中で、様々な感情の揺らぎや出来事があったことなど。
……まだ二ヶ月だけど、色々とあったなぁ。
気がつくと、一時間くらい話してたし。
「まとめると……ファミレス行ったり、相合傘したり、家に行ったり、カラオケやゲーセン、看病されたりしたり、よく一緒に勉強もしましたね」
「っ……!」
「アキラさん? どうしました?」
何やら悶えてるように見えるけど……。
「い、いや、すまない……おばさんには眩しすぎた」
「はい?」
いや、どこをどう見ても、おばさんには見えないけど。
「ふぅ……いや、アオハルってこのことかと思ってな。いや、やはり実際に話を聞くのは良い。電話やメールではない、その者が感じたり思ったりしたことがダイレクトに伝わる」
「えっと……お役に立てたでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。これで、創作が捗るよ。それで、何か相談はあるかな? べつになんでも良いよ」
「相談ですか……」
正直言って、葉月のおかげで小説に関してはスランプを脱した気がする。
そうなると……その葉月についてかな。
葉月のおかげで小説を書けるようになったから、そのお礼がしたい。
「実は……その女の子、あんまり自由に使えるお金がないんです」
「ふむ……」
「俺の勘違いじゃなければ、夏にもラブコメイベントをしてくれるって感じなんですけど……俺が出そうとすると、嫌がるんです。俺に悪いからって」
「なるほど……そういう女性の気持ちはわかる。私もそうだったしな。それで、どうしたい?」
「弟と妹がいるので、バイトもあまり出来ない感じで……どうにかならないですかね?」
「ふむ……なるほど」
「あっ、すみません、こんな話で……」
「いや、そんなことはない。そうだな……下読みでバイトをするか?」
「えっ? 下読みですか?」
「そうだ、私の未発表の小説を読む仕事だ。実は、今日はその話もしに来たんだ。作家仲間にも聞くが、色々な人の意見が欲しい」
「でも、それでお金をもらうのは……他の方と違って、俺達に返せる物が……」
「何を言っている? 君達高校生の貴重な時間を割いてもらうんだ。何より、この歳になると関わりを持つことが難しい若者の意見が欲しい。しかも、それが小説を読んでこなかった今時の女の子ならいうことはない」
「……確かに、俺も葉月の意見は参考になりました。みたことがないからこその感想とか」
「そうだ、そういうのが欲しい。というわけで、葉月さんとやらに頼んでくれるか? あと、他にも日雇いのバイトなんかも斡旋できるか聞いてみるよ。君も、お金はいるだろう?」
「わかりました。はい、小説投稿サイトで稼ぐのには波があるので」
ランキングに入れないと稼げないし、毎回面白い作品をかけるわけじゃない。
そこはトライアンドエラーを繰り返して、ひたすら研鑽していくしかない。
「それはそうだろうなぁ……私は文芸よりの人間だが、Web小説も読む。最近は読者も作者も多く、ジャンルも様々だ。ある意味で、生き残るのは私達より大変かもしれない」
「ええ、そうなんです。去年書いてた人が、今年はいなくなるなんてざらにありますし」
「それはこちらも同じだな……おっと、もうこんな時間か。すまない、この後また仕事でね」
「いえ、今日はありがとうございました」
「いやいや、礼を言うのはこちらだよ。それじゃあ、急ぐから先に出るよ」
そう言い、颯爽と去っていく。
「……俺も帰るか」
ちなみに、会計しようと思ったら既に支払いが済んでいた。
アキラさんが女性だったのは驚いたけど……。
やっぱり、想像通りのカッコいい大人だったことは間違いない。
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