第69話 看病イベント

ひとまず、葉月を家の中に入れて鍵を閉める。


あんな姿で外にいたんじゃ、男性達の目に毒すぎる。


ふぅ、これで一安心……じゃないし!


「ふえっ? どうしたの?」


「い、いや」


こんなの俺の目に毒すぎる!


なんか、いつもよりぽけーっとして無防備だし!


「あっ、野崎君だぁ……」


「ちょっ!?」


そのまま、俺に体を預けてくる!


つまりは——おっぱいである!


「えへへ」


「お、落ち着いて」


ど、どうする? めちゃくちゃ可愛いんだけど?


……いやいや! 変なこと考えてる場合じゃない!


相手が具合悪いときに、何を考えてんだ!


「部屋はどこだ?」


「うんと……あっち」


「わかった。ほら、掴まってくれ」


「うん……」


俺は煩悩を抑え込んで、葉月を布団へと連れて行くのだった。






寝室に入り、とりあえず布団に寝かせることに成功する。


「良しっと……熱は……あるよな」


額に触れると、かなり熱くなっている。


「どうだ?食欲はあるか?」


「……お腹空いた」


「よし、お腹が空くなら大丈夫だな。ゼリーがいい? それとも、プリンの方がいいか?」


「ゼリーなら食べられるかも」


「よし、わかった。それじゃあ」


俺が立ち上がろうとした時……葉月に手を掴まれる。


「ど、どうした?」


「いかないで……さみしい」


「へっ? い、いや、行かないから。ちょっとゼリーを取ってくるだけだから」


「ほんと? 帰ってくる? いなくならない?」


その目は不安そうに見えて、いつもの強気さは一切なく弱々しい。


なので、俺は手を握り返して……。


「ああ、戻ってくる。だから、少し待ってて」


「……うん」


葉月が手を離したので、急いで玄関に戻って買ってきた物を適当に冷蔵庫に入れる。


そしてゼリーだけを持って、葉月のところへ戻る。


「ほら、ゼリーだ。食べられるか?」


「むぅ……食べさせて」


「はい?」


「食べさせてくれないと嫌」


可愛い……いやいや、子供か!


ほんと、いつもと違う。


風邪を引いてるだけが理由なのか?


……ひとまず、いうことを聞くしかないか。


「わ、わかった。ほら、アーン」


「アーン……おいしい……ん、もっと」


なんかエッチだな……いやいや、煩悩退散、煩悩退散。


「ほら、アーン」


そして、次々と食べさせて……全部を食べきる。


「よし、よく食べたな。薬は飲んだのか?」


「飲んでないよ」


「よし、じゃあ……とりあえず、これを飲んでくれ」


買ってきた薬を手渡し……。


「次は水だ」


「んっ……コクコク……」


「よし、飲んだな。じゃあ、ここに置いておくから、また後で飲んでくれ」


「どこか行っちゃうの?」


布団の中から、顔をちょこんと出して言う。


その姿は、まるで小さな子供みたいだ。


「いや、葉月が寝るまでここにいるよ」


「ほんと? 絶対だよ?」


「ああ、約束する」


そう言い、俺が葉月の手を握ると……静かに寝息をたて始める。


それを見届けた俺は、急いでスマホを操作して、ある人に連絡を取るのだった。

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