第65話 妹や弟
葉月のお母さん……由香里さんがご飯を用意している間に、肝心なことを思い出す。
テーブルに案内された俺は、袋からぬいぐるみを取り出す。
「ほら、恵梨香。これあげるよ」
「……ふえっ!? わ、わたしに?」
「ええ、野崎君がUFOキャッチャーで取ってくれたのよ。あなたがペンギンさんが好きだからって。きちんとお礼言いなさいね」
「う、うんっ! お兄さん! ありがとうございます!」
人形を抱きしめたまま、満面の笑顔を見せる。
うおっ!? 眩しい……! そしてかわいいな!
これが、妹って感じなのか?
「ええー!? 俺にはないの!?」
「こら、わがまま言わないの」
「だってよぉ……」
「すまんな、拓也。何か、欲しい物はあるか?」
「俺、スイッ○が欲しい!」
「こ、こら! そんな高いもの貰えるわけないでしょ!?」
「イテッ!? ご、ごめんなさい……」
葉月の拳骨が、拓也の頭に落とされた。
流石にアレは高いしなぁ……。
「何か、理由はあるのか?」
「うんと……みんながポケモ○やってるのに、その話題に入れないんだ」
……あぁ、それは死活問題だな。
その時々のゲームは、その時にか話題にできないし。
拓也には、俺のようなぼっちにさせたくはないし。
「なるほど……葉月、ゲームを貸すのはありか?」
「へっ? い、いや、ありだけど……良いの?」
「スイッ○なら二台あるからいいよ」
「ん? どうして二台あるの?」
その言葉に、思わず下を向いてしまう。
はい、ぼっちだからです。
交換する相手もいないし、赤外線通信も怖いので出来ません。
「……それを聞かないでくれ、悲しくなってしまうから」
「へっ!? だ、大丈夫!?」
「ああ、平気だ」
「えっ、えっと……にいちゃん、いいの?」
「とりあえず、お母さんに許可を取ってからだな」
すると、由香里さんが台所から出てくる。
「聞いていたわ……私としてはありがたいけど、いいのかしら?」
「ええ、俺としては問題ないです。もうクリアもしてますから。ただ、色々なことが疎かになると思うので……」
「そうねぇ……じゃあ、野崎君から言ってあげてくれる? 約束事とか」
「お、俺、いうこと聞く!」
「それじゃあ……お母さんやお姉さんの言うことはしっかり聞く……違うな。ルールを、自分で決めることだ」
「自分で決める……どう違うの?」
「うーん……ただ、言われたから守るんじゃなくて、自分で決めたことを守るってことだ」
これはアキラさんに言われたことだ。
言われたからではなく、自分で言ったことは守りやすいと。
「……じゃあ、家のお手伝いをする。姉ちゃんの言うことを聞く。妹の面倒を見る……というか、一緒に遊ぶ」
「よし、言ったな。じゃあ、明日には持ってくるよ」
「ヤッタァ! ありがとう!」
「ふふ、本当にありがとうございます」
「野崎君、ありがとね」
「い、いえいえ」
一斉にお礼を言われ、少し恥ずかしくなってしまう。
その喜ぶ顔を見ていると、こちらが嬉しくなる。
正直言って末っ子だから、実際の妹とか弟の可愛さがわからなかった。
この気持ちは大事な気がする……。
俺は心のメモに書いて、それを大事にしまっておくのだった。
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