第64話 お誘い
……いかん、非常まずい。
さっきの葉月の仕草と言葉が、頭から離れない。
両手を後ろに組んでからの上目遣い……はい、お胸が強調されてました。
そこからの水着宣言……思わず、想像してしまった。
何よりまずいのは……返す言葉が出てこなかったことだ。
はぁ……こういう時に軽く流せないからだめなんだろうなぁ。
その後、何となく黙ったまま……葉月の家の前に到着する。
「え、えっと……それじゃあ、俺はこれで」
「う、うん……また明日ね」
「あっ、そうだった……ほら、人形を渡しておいてくれ」
あぶないあぶない、さっきの出来事で頭の中から飛んでた。
「あぁー……良かったら、野崎君からあげてくれない? そうした方が喜ぶと思うよ」
「そうなのか? ……じゃあ、少しだけ上がらせてもらおうかな」
「うんっ!」
すると、弾けるような笑顔を見せてくれる。
やっぱり、妹思いのいい子だなぁ……。
「あっ! 話し声がすると思ったらお姉ちゃんとお兄さんだっ!」
「あぁー! ずるい! こっそり遊んでる! つまりはデートだな!?」
玄関の扉が開き、恵梨香と拓也が顔を出す。
「ち、違うし! というか、どこで覚えたし!」
「はは……」
デートじゃない……何に傷ついているんだか。
結局、お母さんにも見つかり、玄関前で帰れるわけもなく……家のリビングにあるテーブルに案内される。
「良かったら、ご飯でも食べていくかしら?」
「えっ? い、いや、悪いですし」
「そんなことないわ。普段から子供達がお世話になってますから。一度、お礼がしたいって思ってたのよ。もちろん、大したものは出せないけど……」
「にいちゃん! 一緒に食おうぜ!」
「わたしも食べたい!」
「わ、私も、食べていけばいいかなって」
さすがに、ここまで言われて帰るわけにはいかないか。
別に嫌ってわけじゃないし……ただ、緊張はするけど。
「……わかりました。では、姉に連絡をしますね。多分、ご飯を作って待ってると思うので」
「いえ、大丈夫よ。小百合さんとは、連絡先を交換したから。それに、さっき天馬君が来た時点で一応連絡をしておいたわ。食事にお誘いしていいかって」
「へっ? いつの間に……」
「この間、挨拶した時に良かったら教えてくださいって言われて……実は今度、ランチに行くことになってるのよ。ふふ、若い女性のお友達なんて初めてだから嬉しいわ」
「そ、そうだったんですね」
「多分、連絡来てるんじゃないかしら?」
スマホを確認してみると……確かに連絡が来ている。
『こっちのことはいいから、お母さんにしっかり好印象を与えてきなさいと』
……このセリフといい、いつの間にか連絡先を交換してることといい……。
相変わらず、俺とは違って出来る姉である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます