第62話 寂しい気持ち

ゲームセンターを出ると、少し涼しくなっていた。


時計を確認してみると、六時半を回っていた。


夏とはいえ、流石に暗くなってきている。


それにしても……楽しい時間はあっという間に過ぎるって本当だな。


「もうこんな時間だし……帰ろっか」


「ああ、そうだな」


「じゃあ、私はこっちだから。野崎君、またね。次は何処に行くか考えておくから」


俺とは反対方向へ歩き出そうとする葉月を見て……なにやら、よくわからない気持ちになる。


「いや、遅いから送っていくよ」


気がつけば、俺は考えるより先に言葉が出ていた。


「へっ? い、いや、まだ明るいから大丈夫だし。野崎君だって、お姉さん帰ってくるでしょ? ご飯とかあるはずだし」


「いや、ここで帰ったら俺が姉貴に殺される」


いや、今気づいた……これは、ただの言い訳だな。


もちろん、姉貴は怒るだろう。


でも、ただ単に……俺が葉月と離れるのが名残惜しいだけかもしれない。


「それもそうかも。君のお姉さん、言いそうだね」


「ああ、間違いない。絶対に『なに帰ってきてんの!』とか言われるわ」


「ふふっ、いいお姉さんだもんね……それじゃあ、送ってもらおうかな?」


そう言い、少しはにかんだ笑顔を見せる。


いつもと違い、あんまり見たことがない表情だ。


その表情に、何やら心臓が痛くなった気がした。


「お、おう。それに、ラブコメイベントっぽいだろ?」


「それは言えてる。なんか、いかにもって感じ」


急に恥ずかしくなり、咄嗟にラブコメイベントと口に出してしまう。


全身が熱くなり、何やらむず痒い……これが、好きって感覚なのか?






暗くなった夜道を並んで歩く。


特に話してもいないのに、何やら楽しい。


少しの興奮と、安心を感じる気もする。


「そういえば、夏休みは何するか決まった? できれば、早めに教えてくれると助かるんだけど」


「えっと……遊園地とか、花火とか」


「うんうん、定番イベントって感じだね。でも、お金ないよ?」


「いや、それくらいは出すよ。俺から誘ってるわけだし」


「うーん……でも、今日も奢ってもらっちゃったし。遊園地とか花火とかは、額が全然違うから流石に悪いし。私も、夏休みはバイトしようかな。色々と買いたいものあるし」


……たしかに、かかるお金はかなり違うか。


しかし奢ってばかりなのも、葉月が気を使うか。


「バイトできるのか? 夏休みとか、弟や妹たちが家にいるだろ?」


「そうなんだよねー。お母さんもお盆休みくらいしか休みないし。うーん、ちょっと考えないとね」


正直言って、俺が払う分には問題ない。


でも、葉月が気を使って楽しめないんじゃダメだよな。


……俺の方でも何か考えてみるか。


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