第61話 UFOキャッチャー
機嫌が良くなった葉月と一緒に、UFOキャッチャーの前に来る。
「UFOキャッチャーか……」
「何か欲しいのある?」
「うん? 葉月は得意なのか?」
「いや、そういうわけじゃないけどね。ただ、野崎君はやったことないって言ってたから」
「確かにやったことはないが……葉月は、欲しい物はあるのか?」
やったことはないが、少しでも良いところを見せたい。
「わ、私? うーん……あっ、でも、恵梨香はぬいぐるみとかあると喜ぶかも」
「……いや、それは妹さんの欲しいものだな」
「ごめんごめん、それもそうだね」
「いや、それで良いや。じゃあ、ぬいぐるみに挑戦してみよう」
そうだ、多分だけど……俺は葉月のそういうところに惹かれた気がする。
自分が欲しいものを聞かれたのに、妹さんの欲しいものをあげるような女の子に。
「そう? じゃあ……あれかな?」
葉月が指をさしたのは、ペンギンの赤ちゃんぬいぐるみだった。
まだ毛色は灰色で、ふわふわしていて可愛らしい。
「よし、わかった。じゃあ、やってみよう」
俺は謎の自信を持って、UFOキャッチャーの前に立つ。
……ま、まずい。
謎の自信から百円を入れて失敗し、次も失敗し、そのまた次も失敗。
これではまずいと思い、四回できる三百円にしたのは良いが……あえなく失敗。
「ね、ねえ、もういいって。これ以上使ったら無駄になっちゃうし」
「い、いや、次こそは取れるはずだ」
「いや、みんなそう言うし」
「じゃあ、これで最後にする」
そうだ、何も掴むことはない。
引っ掛けて落とせば良いんだ。
俺は意識を集中させて、クレーンを動かし……ぬいぐるみが、穴の中に入る。
「……やったっ!」
「やったじゃん! イェーイ!」
「イェーイ!」
自然と葉月とハイタッチをする。
……そして、それに気づいて無性に照れ臭くなる。
「ふふ、ちゃんと取れたね?」
「お、おう」
「いやいや、これくらいで照れられると困るし」
「し、仕方ないだろ? こんなんしたことないし……」
人生で、誰かとハイタッチなどしたこともない。
ましてや、可愛い女の子と。
「というか、本当に来たことないの? それこそ、お父さんとかお姉さんとか。だって、野崎君ゲームとかはやるんでしょ?」
「まあ、ゲームはやるな。うーん……こういう言い方は、あんまり好きじゃないんだけど、なんか無駄な時間と浪費な気がしてた」
「あぁー……まあ、確かに。お金も、結構かかっちゃうしね。だから、私も滅多には来ないし」
「でも……その無駄が楽しいと言うか……上手く言葉にできないけど」
「ううん、わかる気がする。それも含めての楽しい時間ってことじゃない?」
「……なるほど、そういうことか」
いつも疑問だった。
そんなことに時間やお金を使って何が楽しいのかと。
ラブコメ小説でも出てくるたびに、よくわからなかった。
……よし、帰ったら早速書くとしよう。
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