第59話 陰キャ、初のプリクラを撮る

 ……うーん、何か怒らせるようなことをしただろうか?


 先程から、葉月の様子が変だ。


 視線が合わないし、なにやら挙動不審に見える。


「なあ、結局何処にいくんだ?」


「え、えっと……あそこのゲーセンでいいかな」


 葉月が指さすほうに、セガのマークで有名なゲーセンがある。


「まあ、何処でもいいけど」


「それじゃ、決まり。よし! ほら、行こ!」


「お、おい、待てって」


 急に気合を入れて、葉月が早歩きになる。


 俺は慌てて、その後を追うのだった。





 ……うお……人多いな。


 そこでは、学生服の人達で溢れかえっていた。


「何かやってみたいことある?」


「いや、とくには……」


「ラブコメの小説では、どんなことをしてた?」


「確か……UFOキャッチャーとかしてたな。あと、プリクラとか? あっ、でも俺が読んでいたのは昔のやつだから、今の高校生はプリクラ撮らないのか?」


「うーん、難しいところ。流行ってはいないけど、撮る子は撮るって感じかな。何より、私はそんなに好きじゃないし」


「そうなのか? なんか、ピースして撮ってそうだ」


「めちゃくちゃ偏見だし。いや、加工がすごくて……まあ、逆に気持ち悪い感じになるのよ」


「……あぁ、テレビとかで見たことあるな。なんか、宇宙人みたいになるやつ」


「ふふっ、それそれ。ちょっとやり過ぎだと思うんだよねー。まあ、ここには古い機種もあるからやってみよっか」


「お、おう」


 葉月についていき、端っこにある機械に入る。


 女子とプリクラ……そんな日が、俺に訪れるとは。


「ちょっと、何端っこにいるのよ」


「い、いや、どこに立てばいいんだ?」


「もう、仕方ないし。ほら、こっち」


 葉月に誘導されて、真ん中あたりにくる。


「はい、あの画面を見て」


「あの小さいやつか?」


「古い機種だからね」


「そういうもんか」


「ほら、もう撮るから」


「ちょっ!?」


 その豊満な胸が、俺の腕に押し当てられる!


「じっとしてて。こうしないと見切れちゃうし」


「お、おう」


 すると、パシャ!パシャ! と音が鳴る。


「な、なんだ?」


「いや、本当に高校生? ププ、ビビりすぎだし」


「ほ、ほっとけ」


 こちとら、腕に伝わる感触でそれどころじゃないんだよォォォ!


 なんだよ、この柔らかいのはァァァ!


「ほら、ちゃんと画面を見て……せっかく、私が手伝ってるんだから」


 そう言いながら、葉月はピースをしたり、キメ顔をしたりしている。


 葉月にそう言われたが……とてもじゃないが平常心を保てない。


 俺はただ、棒立ちして時間が過ぎるのを待つのだった。


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