第55話 放課後

……終わった。


いや、ほんと良かった。


おそらく、出来は悪くない。


全てのテストを終えた俺は、開放感に包まれる。


「お、終わったぁ……」


「お疲れー」


「葉月もお疲れ……いや、本当に助かった。ありがとな、勉強教えてくれて」


「それはお互い様だし。じゃあ、今日からやっちゃう? それとも、疲れてる?」


「いや、葉月の都合さえ良ければ、今日から頼む」


ようやく、念願のラブコメイベントだ。


ここで経験値を積んで、小説に活かさないと……そういうことにしていく。


「決まりね! 早速いこ!」


「お、おい!? 引っ張るなって!」


いつも通り葉月に手を引かれ、教室から出て行く。





校門を出たところで、葉月に質問する。


「それで、どっちから行く?」


「カラオケかなー」


「どうしてだ?」


「テスト終わりの人が多いから、きっとカラオケとか混んでるし。だから、今のうちにカラオケ行けば間に合うかと思って」


……世の中には、テスト終わりにカラオケ行く連中がそんなにいるのか。


ぶっちゃけ、カラオケなんかいったことないからわからん。


「なるほど、そういうもんか」


「そういうもんよ。というわけで、レッツゴー!」


「お、おう」


「いや、そこはレッツゴーって言ってくれないとだし。私が、ただの恥ずかしい人なんだけど……」


「レ、レッツゴー」


俺はたどたどしく、何とか声を絞り出す。


「……うん、ごめんね。野崎君には、早かったね。逆に恥ずかしくなってきた」


「おい? 酷くないか?」


「ふふ、ごめんって。ほら、混んじゃうから早く」


「へいへい、わかりましたよ」


なるほど……リア充への道は遠いようだ。


しかし、勉強をしないとな。






しかし、俺は現実を知ることになる。


カラオケ店には、学生服姿の人たちで溢れていた。


「こ、これは……」


「ほら、早く行かないと」


「お、おう」


葉月と一緒に受付に行って気づく。


改めて、周りの視線に。


そして、その言葉に。


受付には狭く、人が多いから尚更のこと聞こえてしまう。


「うわっ、めっちゃ可愛い」


「あの子ってあれだよね? あの高校の……」


「えっ? うそ? 隣にいるの彼氏とか?」


「いやいや、ないって」


……そうだった。


葉月は、とてつもない美少女だった。


大きな瞳に、整った輪郭。


均整の取れたスタイルに、ふわふわで柔らかそうな胸。


可愛いと美人のいいとこ取りような容姿だ。


「ん? どうしたの?」


「えっ? い、いや、どうしたのって……」


「ほら、部屋とったからいこ」


葉月は、まるで聞こえていないかのようだ。


……いや、違う。


あんなことなんか、言われてきたに違いない。


だから、自然とシャットアウトしているんだ。


俺は、ひとめというものにさらされたことがない。


可愛いっていうのも……何も良いことばかりじゃないんだな。


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