第54話 今更気付く
そして、週があけて……テスト最終日となる。
まだ梅雨明けはしていないっていうのに、空は晴れわたって暑い。
今すぐにでも、プールに行きたいくらいだ。
……プールか。
時代なのか、最近の高校にはプールなんてないから、もう何年も泳いでないな。
泳げるか? ……小さい頃は、スイミングスクールに通ってたから平気だと思いたい。
そもそも、俺の身体を見せていいのか? インドア生活の、このひょろひょろを。
……今日からイメージトレーニングと筋トレでも始めるか。
いつも通りに学校に行くと……。
「おっはよー」
「おはよう」
当たり前のように葉月が挨拶をして、俺の隣にくる。
これが続けば良いと、切に願っている……そのためにすることもわかってはいる。
頑張って、色々と行動しなくては。
「それで、今日の放課後なんだけど……」
「えっと、何をすれば良いんだ?」
「うーん……色々と考えたんだけど、まずはカラオケとか? あと、ゲーセンかな」
「カラオケ……ゲーセン……」
「あっ、ごめんごめん。流石に定番すぎるし、行ったことあるよね」
「……葉月、俺を甘く見るなよ——行ったことあるわけがないだろう。あんなのは、リア充とか陽キャが行く場所だ」
こちとら陰キャぼっちの俺、ゲーセンやカラオケなど行ったことあるわけがない。
「はい? ……自慢げに言われても困るし。というか、陰キャだろうがぼっちだろうが、カラオケとゲーセンくらいはいくでしょ」
「いや、いかない。真のぼっちは、そんなところには行けない。行けるのは陰キャぼっちのふりをした何かだ。ちなみに、ソースは俺」
俺の中では、あんなカップルやリア充に溢れた空間に行くこと自体が無理だ。
たまに一人で入っていく猛者もいるが、あれは鋼のメンタルの持ち主だ。
それができる時点で、少なくとも俺とは違う。
……とまあ、俺の好きな小説のキャラが言っている。
「はい? ソース?」
「ぁ〜俺にとってのバイブル小説に書いてある。ぼっちを極めた男の物語だ」
「ふーん、そうなんだ。でも、君はもうなれないね?」
「なに?」
「だって、友達できたんでしょ? 佐々木君、怒ると思うけど?」
「そうだったな……そっか、友達か」
いや、それを信じてないわけではない。
ただ、未だに少しピンと来ないだけだ。
……多分、そうじゃなかった時のダメージがでかいからだ。
何かを手に入れると、失うことが怖い。
「何より——私がいるし。私だって、少なくとも友達じゃないの?」
「……そうだな」
「だから、カラオケやゲーセンいこ?」
「……ああ」
「よし! じゃあ、テスト頑張ろー!」
……そっか、俺はもうぼっちじゃないのか。
そんな当たり前のことに、今更ながらに気づくのであった。
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