第56話 カラオケイベントその一
そして、人生で初めて……カラオケ店に入る。
へぇ、意外と綺麗なんだな。
椅子も真新しいし、画面なんかも最新のっぽい。
なんか葉月がマックスとかジョイナントカとか言ってたけど……よくわからん。
とにかく、もっとぼろぼろな感じを想像していた。
ただ一つ難があるとすれば……ここ、狭くない?
「今時は、こんな感じなのか」
「いや、どこの時代の人だし。というか、さっさと座ろ。時間もないし」
そう言い、左側のソファーに座る。
なので、俺は反対側のソファーに座ろうと思い……。
「ちょっと? どうしてそっちなのよ?」
「へっ? い、いや、この部屋狭いし」
二つのソファーとテーブル、大きいテレビで、割とギチギチな感じだ。
「まあ、確かに狭い方かも。でも、2人用だからこんなものだし。というか、この部屋をわざわざ選んだし」
「ん? どうしてだ? よくわからないけど、広い方が良いんじゃないのか?」
「そ、それは……混んでるのに、二人で広い部屋を使ったら悪いじゃん」
「ああ、なるほど。それは確かに」
……やっぱり、良いやつだな。
「ほ、ほら、ささっと隣に座る! どうせ、使い方とかわからないんでしょ?」
「お、おう」
仕方ないので、葉月の隣に座るが……同時にとても良い匂いがしてくる。
教室でも、俺の部屋でも感じたことのない匂いだ。
なんだこれ? 頭がクラクラしそうだ。
「ねえ、聞いてる?」
「お、おう」
いかん、全然聞いてなかった。
というか、近いんですけど!?
さっきから、胸が当たりそうになってる!
「いや、絶対聞いてないし。何か歌えるのある?」
「いや、わからん。なにせ、歌ったことないし」
「カラオケに来たことない高校生とかいるんだ……」
「悪かったな」
「ううん、別に悪くないよ——じゃあ、私が初めてだね?」
テーブルにほおづえをついて、横目でウインクをしてくる。
その姿に心臓が高鳴り、同時にインスピレーションが湧いてくる。
「ちょっと待て」
「ひゃっ!?」
両手で葉月の肩を掴み、その場で固定させる。
「いいから」
「ちょっ、ちょっと……まだ早いし……」
さっきのシーン、小説に使えるか?
狭い密室でのカラオケ、ヒロインが迫りつつウインクをしてくる。
それに対して、主人公はドギマギするわけか。
「よし、イメージ湧いてきた」
「はい?」
「ちょっとだけ待ってくれ。その間に、適当に曲を入れてくれ」
俺はスマホで小説のマイページを開き、忘れないうちに文字を入力する。
「……っ〜!! も、もう!」
「……なんで怒っているんだ? これもラブコメイベントじゃないのか?」
「怒ってないし! ラブコメイベントだし! じゃあ、私から入れちゃうから!」
一体、俺が何をしたというのか……解せぬ。
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