第43話 お電話

 翌日の日曜日も、午前中から執筆をして……。


 お昼ご飯を食べたタイミングで、姉貴に話しかけられる。


「今日は、なんの予定もないの?」


「どういう意味だ? 俺に日曜日の予定があるわけないし」


「ほら、葉月ちゃんとか。梅雨だけど、今日も天気いいし。来週からは、ほとんど雨みたいよ? お出かけにでも誘ったら?」


 確かに、六月の後半に入るが、そこまで雨の日はない。


 というか、もうそんなに経ったのか。


 葉月と知り合ってから、時間の流れが早い気がする。


「いやいや、何を言って……昨日のアレは弟や妹のためというか、葉月のお母さんがのんびりするためっていうか……」


「はぁ……我が弟ながら情けない。まさか……アンタ、自分から連絡したことないとか言わないでしょうね? 言っておくけど、昨日みたいに用事がある時以外よ?」


 用事がある時以外に連絡……? そういや、考えたこともないな。


 でも、してない気がする。


 そもそも、用事がなくても連絡していいのか?


「……ないけど」


「はぁ……電話も?」


「あ、あるわけないし……」


「何やってるのよ……葉月ちゃん、愚弟がごめんなさい」


「愚弟とかいうなし」


「愚弟で十分よ。言われたくなかったら、この後に連絡しなさい」


「な、なんのために?」


「なんでもいいのよ。何してるのとか、今日の予定はとか」


「き、きもくないか? 別に、彼氏ってわけでもないのに」


「まあ、嫌いな男からならアレだけど。あんたは葉月ちゃんに嫌われてるの?」


「えっと……それはないと思う」


 少なくとも、嫌われてはいないはず……だよな?


「なら平気よ、気にしすぎだわ」


「……わかった、この後電話してみる」


「ならよし。じゃあ、さっさと食べちゃいなさい」


 姉貴に言われ、俺は急いで昼ご飯を食べるのだった。





 その後、自分の部屋に戻り……電話をかける。


 すると、割とすぐに電話がつながる。


「も、もしもし?」


『もしもし? ……ど、どうしたの?』


「えっと、何をしてるかなって思って……」


『へっ?』


 ば、馬鹿か俺は! 何を馬鹿正直に言ってるんだ!?


 姉貴が言ったのは、あくまでも喩え話だろうに!


『……何か用事あったかな?』


「い、いや、そういうわけではなくて……すまん、ほんとに大したことじゃないんだ」


 ほんと、我ながら嫌になる。


 もっと話題とか、楽しい話を振れればいいのに。


『うんん、謝ることないし。今日は、友達と遊びに行く感じかな』


「なるほど」


『野崎君は小説書いてる感じ?』


「まあ、そんなところだな」


『今日の更新も見たけど、結構面白かったし。女の子の書き方とか、上手くなったかも?』


「おっ、それは嬉しいな。まあ、それも葉月のおかげだな」


『役に立ったなら良かったし。じゃあ、引き続きよろしくね?』


「お、おう」


『ところで、今日は一緒に遊んだりする? 桜とかと遊ぶんだけどね』


 桜……ああ、いつも一緒にいる長谷川さんのことか。


 見た目がきつい美人さんで、結構怖いんだよなぁ。


 いや、葉月の友達なら良い人かもしれないけど……ハードルが高すぎる。


「……悪いけど、辞めとく。いや、長谷川さんが悪い人ではないっていうのはわかってる。葉月が親友っていうくらいだし」


『……それってつまり……』


「ん? すまん、よく聞こえない」


『な、なんでもないし! でも、そっか……』


 その声は心なしが弾んでる気がする。


 もしかしたら、俺が自分の友達と仲良くなる方が嬉しいとか?


 ……俺も少し頑張ってみるか。


「こ、今度、機会があったら会ってみようかな?」


『えっ? 会いたいの? ……それはそれで……むぅ』


 あれ? 何か間違ったか? さっきは遊ばない?って聞いたのに。


『まあ、良いかも……うん、今度やってみようか? 桜も、野崎君のこと気になってるみたいだかし』


「お、お手柔らかに……」


『ふふ、了解……あっ、もう時間だし』


「すまんな、出かけるところだったのに」


『ううん、全然平気だし。その……いつでもラインして良いし、電話かけてくれて良いから』


「わ、わかった」


『それじゃ……』


 そこで、通話が切れる。


 そっか、いつでもラインや電話しても良いのか。


 気分が良くなった俺は、珍しくテンションが上がる。


「……たまには出かけてみるか」


 俺の性格上というか、インドアの宿命というか……すぐに気分が変わる恐れもある。


 そう思った俺は、急いで出かける準備をするのだった。

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