第42話 孤独じゃなくなると寂しい

葉月達が帰った後、俺はひたすら執筆をする。


最近は小説以外に時間を取られることも多く、書く量が減るかもしれないと心配していたが……。


「うん……意外と書けてるな」


特別増えたと言うわけでもないが、そこまで減ってもいない。


パソコンの前に座る時間は、明らかに前より減っているというのに。


「つまり、書くスピードが上がっているということか」


だとしたら、葉月達のおかげだろう。


家族シーンなんかを書く時、いつも筆が遅くなっていた。


得に母親や年下の兄弟を描くシーンとかは……。


「やっぱり、実体験やインプットは大事ってことか……」


よし……葉月が手伝ってくれるって、言ってるし。


色々なイベントを経験して、それを小説に活かさないと……。


「そう思わないと……普通に楽しんでしまいそうだ」


葉月は俺の小説が読みたいから……そのために、ラブコメイベントをやってるわけだし。


それなのに、俺が普通に楽しんでいいわけがない。


「はぁ……でも、楽しかったな」


昨日はファミレス行ったり、そのあと家で遊んだり……。


「なにが、あんなに楽しかったんだ?」


すると、姉貴の声が聞こえる。


どうやら、いつの間にか夕飯の時間になっていたらしい。


俺は急いで小説ページを保存して、一階のリビングに向かうのだった。


リビングに入り、席に着く。


「いただきます」


「はい、召し上がれ」


その後、黙々と食べ進める。


別にいつもと変わらない感じなのに、なにかがおかしい。


「……静かね」


「えっ?」


「いえね、さっきまで騒がしかったから。あっ、もちろんいい意味でよ?」


「あ、ああ……そのさ、なんか変なんだよ」


「あら、どうしたの? ようやく葉月ちゃんのことを好きになった? 告白でもするの?」


「はぁ!? なんでそうなるんだよ!? 別に、そういうアレじゃないし」


「はぁ、情けない……それで、どうしたの?」


「なんか、いつもと同じように食べてるのに……なんか、気まずいというか……上手く言語化できないけど」


「ああ、そういうことね……それは寂しいのよ」


「寂しい?」


「ええ、そうよ。あんな風に家の中で遊んだことないでしょ? うちも基本的には、私とアンタしかいないし。多分、普通の……って言い方は嫌いだけど、大体の人には家族がいて、さっきみたいに遊んだりするのよ」


「なるほど、そういうものなのか」


「まあ、お父さんは仕事でいないし、うちにはお母さんもいないから……私も歳が離れてるから遊び相手って感じではなかったし、ああいう風にトランプとかしたことなかったしね。うーん……あんたが人見知りなのは、もしかしたら私たちのせいかもね……」


「それは別の話だろ。俺がぼっちなのは、俺自身の責任だし……だから、姉貴が気に病むことはないよ」


それを誰かのせいにするつもりはない。


環境のせいにしたい気持ちもわかるけど、それがダサいということくらいは、俺にだってわかる。


「ふふ……ありがと。でも、私も楽しかったわ。友達とは遊んだことあるけど、ああいう感じはなかったし」


「なら良かったよ。じゃあ、また呼んでも良いかな?」


「ええ、もちろんよ」


その後、再び食べ始め……かちゃかちゃとお箸の音だけが残る。


今までは、ずっと孤独だったから気づかなかった。


そっか……この感覚が寂しいってことなのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る