第38話 俺の部屋にて

 階段を上がり、俺の部屋へと案内する。


「すげぇ~! 本がいっぱいだっ!」


「すごーい! これ、全部お兄さんの!?」


「ああ、そうだよ」


「うーん……改めて見るとすごいわね」


 三人は、しきりに本棚を眺めている。


 ちなみに、当然ながらエッチな本などは置いてない。


 そういうものは、すべて電子の世界に置いてきた。


 ……未成年とかどうとかは、勘弁してくれると助かる。


「あっ!」


「ど、どうした!?」


 まさか紙媒体のものがあったか!? いや……そんなものは持ってなかった。


「これ! 図書館で読んでたやつ!」


「どれどれ……ああ、それか」


 拓也が指さす本を確認してみると……どうやら、ライトノベルのようだ。


 最近では、図書館にライトノベルがあることも珍しくない。


 ネット小説の普及により、読む人口が増えてきているらしい。


 それにアキラさん曰く、昔よりはオタクに対する風当たりも弱いという。


 正直言って……俺としては、全然そんな感じはしないのだが?


 とりあえず、そんな時代に生まれなくてよかった。


「しかも、続きがある! に、にいちゃん!」


「ああ、好きに読んでいいぞ。ただし、綺麗に扱うこと」


 俺は目線を合わせ、拓也の目を見て真剣に問いかける。


「も、もちろん! にいちゃんの本だし……」


「それもあるが、その本一冊を作るために沢山の人が動いてる。だから、綺麗に扱って欲しい」


 作者さん、編集者さん、絵師さん、出版社さん。


 カバーを作る人、印刷をする人、営業する人、本を売る人など……。


 それらの人々が協力しあって一つの本になると、アキラさんが教えてくれた。


 まあ、俺も本は出したことないから実感はないけどな。


「うーん……よくわかんないけど、わかった!」


「まあ、そうだよな。とりあえず、丁寧に扱ってくれたらいい」


「うん!」


「わたしはこれ!」


 二人はそれぞれ好きな本を取り、クッションに座り読み始める。


 よしよし、これも布教活動の一興だ。


 若者の文字離れも起きているというし、これで少しでも興味を持ってくれたらいい。


「私はどれにしようかなぁ……ほんと、いっぱいあるし」


「そうか? 他の家のことは知らないから、よくわからん」


「友達の家とか行くけど、こんなに何百冊もないし。これって、例のお金で買ってるの?」


「ああ、小説を読んでもらって稼いだお金だ。そのお金で趣味であるで本を買う……うん、無限ループだな。それに、そうすることで出版業界に恩返しができるし」


 このサイトがなければ、コミュ障である俺がお金を稼ぐことなどできなかった。


 アキラさん達に出会うことも……葉月とこうして仲良くなることもなかったに違いない。


「なるほどなるほど……そっか、そうすれば本が売れて……続刊とかになるってこと?」


「おっ、よく知ってるな?」


「それも調べたし……君とおはなしするために」


「うんうん、そうなんだよ。だから、是非とも皆さんには発売二週間以内に本を買っていただき……」


「もう、肝心なところ聞こえてないし……」


「ん? 何か言ったか?」


「ふん……知らないし。それで、なんで二週間以内なの?」


「俺も又聞きだし、絶対ってわけじゃないけど……その二週間の売り上げで、続刊が出せるか決まるからだ」


「えっ!? そんなに早く決まっちゃうの!?」


「恐ろしいことに、そうらしい。まあ、俺も詳しいことはわからんけど」


「へぇ……そうなんだ。じゃあ、早く買った方がいいね。でも、電子にはしないの?」


「電子は便利だけど、本屋さんの売り上げにはならないしなぁ。単純に紙が好きなのと、本屋さんが潰れるのは困るから、紙媒体で買うことにしてる」


「あぁ、それは聞いたことあるかも。本屋さん、どんどんなくなってるって。えっと……これにしようかな」


 そう言い、一つ小説を手に取る。


「どこに座ろうかな? クッションはまだある?」


「あっ、ないな……すまん」


「ううん、平気だし……ここ借りよっと」


「お、おい?」


 葉月が座った場所は……俺のベットだった。


「な、何かまずい?」


「い、いや、別に……」


 まずいことはない……はず。


 なのに、なんだ? ……この気恥ずかしさは。


「ほら、とりあえず隣に座って」


「お、おい?」


 葉月に手を引かれ、俺も隣に座らされる。


「な、なんだよ?」


「ラ、ラブコメイベントってやつよ。二人がいるなら、その……変なことしないでしょ?」


 俺に近づき、こっそりと耳打ちをしてくる。


 どうやら、二人は読むことに夢中で、全然気づいてない様子だ。


「へ、変なこと?」


「な、なによ? 私に魅力がないって言いたいの?」


 ……いや、魅力がありすぎて困るのだが?


 スカートとタイツね隙間からは、柔らかそうな太ももが覗いているし……。


 身長の関係からか、俺の目線の下には谷間が見えるし……。


「むぅ……仕方ないわね」


「ちょっ……!?」


 俺の手の上に、葉月の手が置かれる。


「静かにして……」


「お、おう……」


 ただ、それだけのことなのに、俺の心臓が跳ね上がる。


 そして、とある衝動も……ほんと、二人がいて良かった……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る