第39話 写真

俺も積んである本を手に取り、葉月の隣で読書をする。


隣からいい香りがして、集中できるかどうかわからなかったが……。


俺の意識は、本の中へ入っていく……。






……うん、いい。


やはり、面白い小説はいい。


面白い小説というのは、人それぞれだ。


ただ、個人的な意見を言うなら、読了感のある小説だ。


別にラブコメでもファンタジーでも、感動ものやコメディものでもいい。


読んだ後に『ふぅ』と言葉をはいてしまうような作品だ。


「ふぅ……」


「「「じー……」」」


「はい?」


気がつくと、三人が俺を見つめていた。


「にいちゃん、すげぇ集中力だな!」


「お兄さん、声かけても無反応だったっ!」


「ほんと、それが勉強とかに活かせたらいいのにね」


「ほっとけ……というか、何をしてたんだ?」


「いや、私達はタイミングよく集中力が切れちゃって……でも、野崎君は真剣に読んでるから、邪魔しないようにって。あと面白いから、しばらく眺めてようって」


「面白いか?」


「あのな! 結衣ねえがにいちゃんの横顔を見てニヤ——むぐぅ〜!」


「な、なに言ってんのよ! そんな顔してないし!」


すると、恵梨香が俺の顔を見て……。


「えっとね! お姉ちゃんがね! お兄さんのこと、変な顔だって!」


「ぐはっ!?」


その言葉に、俺は思わず膝をつく。


「お兄さんー? 平気ー?」


「ふ、ふふ……平気さ。自分でもわかってるし」


そうか、やはり変な顔か、それでニヤニヤしてたのか。


今日は頑張ってお洒落したが、もうやめようかな。


俺ごときが頑張ったところで、どうにもならないし釣り合わないか。


……いやいや、そもそも釣り合わないとか意味わからん。


「ち、違うし!」


「いや、いいんだ……気を遣わないでくれ」


「だから……」


「あらあら、騒がしいわね」


いつの間にか、姉さんが部屋の中に入ってきていた。


「あっ、すみません」


「大丈夫よ。ただ、それまでがあまりに静かだったからね。というか、遊びに来て本だけを読んでるとか……」


「楽しかったです!」


「うんっ! 漫画面白い!」


「ならいいけど……ところで、うちの愚弟はなんで膝をついてるの?」


「ほっといてくれ……いいんだ、俺なんか」


「ああ、もう……」


「ふんふん……なるほどねぇ。仕方ない、お姉さんが何とかしますか……恵梨香ちゃんに拓也君だっけ?」


「「はいっ!」」


「いい返事ね。じゃあ、ちょっとお姉さんについてきて。下に行ってジュースでも用意するから」


「「わぁーい!」」


姉さんが二人を連れて、部屋から出て行く。


「そういや、飲み物も用意してなかったな」


ほんと、我ながら情けない。


こういう気配りができないから、ダメなんだよなぁ。


「別に気にしなくていいし。そ、それより……変な顔なんて言ってないから」


「いや、気を遣わなくて良いって」


「きょ、今日の格好だって似合ってるし、髪型だって良いと思うし……」


葉月を見てみると……耳まで真っ赤になっていた。


なんだ? どういうことだ? ……さっぱりわからん。


「顔も悪くないし……と、とにかく! そういうことだから!」


「いたっ!?」


背中を思い切り叩かれる。


「わかった!?」


「わ、わかった」


よくわからないが、とりあえず答える。


「わ、私も喉乾いたし!」


そう言い、葉月も部屋から出て行く。


……ほんと、女子って謎である。






気持ちを切り替えて、俺も一階に行くと……。


「へぇ……これが野崎君の小さい頃……」


「お兄さん小さいの!」


「俺と同じくらい!」


「あっ、ここから中学生の写真……」


「なに見て……ちょっ!?」


姉貴がテーブルの上で開いているのは……俺のアルバムだった!


幼稚園から中学生までの黒歴史が詰まっている!


「あら、来ちゃったの」


「な、なにしてんだよ!」


「いや、こういうの定番じゃない」


「わかるけど! 勝手に見せんなよ!」


「ねえねえ、続き見よ」


「いや、聞いてる? 俺は見られたくないんだけど?」


「みたーい!」


「俺も!」


「くっ……」


こ、ここで嫌だというのが、空気が読めないっていうことくらいはわかる。


しかし、俺の寂しい学生生活がばれてしまう……あれ? 今更な気がしてきた。


「はぁ……わかったよ」


その後、地獄の時間を耐え抜き……いや、耐えきれなかった。


なので庭に続く窓を開けて、そこに座って外の空気を吸う。


すると、葉月がとなりにやってくる。


「……なにもいうな」


「大丈夫、今度は私のも見せるし」


「いや、葉月とは違うから。見たろ? 俺の中学の写真……誰とも写ってない」


どう話しかけていいか分からずにいたら、いつの間にひとりぼっちになっていた。


当然、リア充グループに入れるわけもなく……。


その他の出来上がったグループに、仲間に入れてという勇気もない。


それどころか、どこか斜に構えてる自分がいた。


あえて、ひとりぼっちでいますという……可哀想と思われたくないから。


それが、周りからどう思われてるかもわかってたけど。


「じゃあ……これからは写真撮ろうね」


「えっ?」


「とりま、スマホ出して」


「お、おう?」


わけもわからず、葉月にスマホを手渡すと……。


「はい、もっと近づいて」


「へっ? い、いや……」


これ以上近づくと、アレが当たるのですが……。


「もう、仕方ないなぁ……よいしょっと」


「うおっ!?」


「はい……撮れたっと。とりあえず、思い出が一つできたね? い、言っておくけど、変なことに使ったら殺すから!」


そして再び、テーブルの方に戻って行く。


「……励ましてくれたのかな?」


俺が、手渡されたスマホに視線を向けると……。


そこには、腕を組まれて変な顔をしている俺の姿と……眩しい笑顔の葉月がいた。


とりあえず、俺が大事に保存したことは……言うまでもない。




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