第33話 お洒落?

 次の日、俺は午前中のうちから、急いで執筆を進める。


 なにせ、陰キャぼっちの俺である。


 本来なら休日に用事などあるわけがないので、普段は一日中執筆をしていたりする。


 もしくは、インプットのために小説や漫画を読んだり……。


「よし……ここまでかければ良いかな」


「天馬~!! お昼ご飯できたわよ~!!」


「わかった! すぐに行く!」


 切りのいいところまで書けたので、保存をしっかりとして……。


 リビングに行き、焼きそばを食べる。


「あんた、今日はどういう予定なの?」


「えっと、葉月の家に迎えにいって……」


「ん? 葉月ちゃんは、私たちの家をしってるのに? でも、小さい子供二人いるしあんたでもいないよりは安心か」


「ひとこと余計だ。まあ、それもあるけど、パンケーキを奢る約束をしちゃってな。家に来て出掛けるのも二度手間かなと。あと、あっちのお母さんが挨拶をしたいって」


「……なんですって?」


 その瞬間、姉貴の目つきが変わる。


 なんだ? 何かまずいことを言ったか?


「いや、だから……パンケーキを奢るって約束を」


「そこじゃないわよ。まあ、それ自体は点数稼ぎにもなるし偉いと思うわ。じゃなくて、向こうのお母さんに挨拶する件よ」


「ん? 何か問題があるのか?」


「大ありよ。あんた、その恰好で行く気じゃないでしょうね?」


 俺の今の恰好は、下はスエットに、上はTシャツにパーカーを羽織っている。


 新品で汚くないし、コンビニやファミレスくらいなら問題ない思うのだが。


「だめか?」


「だめに決まってるじゃない。相手の親御さんに会うのに……どうしよう? 今から服を買いに行っても間に合わないし……確か、私が貰ったジャケットがあったはず……あとはお父さんが置いていったズボンがあるから……」


「お、おい? そこまでしなくても……」


「なに言ってるの? 挨拶っていうのは第一印象が大事になってくるのよ。あんないい子、あんたの前に現れるのは一度きりよ。少しでも、点数を稼いでおかないと」


「いやいや、そういうアレじゃないし」


「なに言ってるのよ。あんなにデレデレしてたくせに。おっぱい大きいし、可愛いから無理もないけど」


「してねえし!」


 なんで、一度しか一緒にいるところ見てない姉貴にばれてるんだ!?


 もしかして……葉月にもばれてたりするのか?


「バレバレよ。とにかく、第一印象が大事。あんたが尊敬する先輩も、そういうことを言ってなかった?」


 ……それは、確かに言っていた。


 作家も編集者さんに会ったり、パーティーに出たりすることがあると。


 その時にはしっかりした格好でと。


「……言ってたな」


「でしょ? というわけで、その髪をどうにかしなさい」


「ん? ついこの間、切ったけど……」


 俺の髪の長さは、襟足が刈り上げない程度に、横は少し耳にかかるくらで、前髪は目にかかる感じだ。


 あとは量が多いので、すいてもらう……大体、いつもそんな感じだ。


 一つだけ言えるのは、お洒落な感じではない。


「まあ、野暮ったいけどかろうじて清潔感はあるか……あとは、ワックスをするかしら?」


「はっ? そんなん、したことないけど……」


「私が持ってるから平気よ。ほら、さっさと食べて準備するわよ」


 その目は鋭く、有無を言わさずといったところだ。


 こうなったら、俺に逆らう術はない。






 その後、洗面所にて髪をわしわしされる。


「お、おい? めっちゃ髪痛いんだが」


「スプレーしてるから。今日は雨こそ降ってないけど、梅雨だからね。髪型を維持するために固めておかないと……よし、ひとまずできたわ。ほら、目を開けて鏡を見なさい」


「……変だな」


 前髪が上がって、おでこが見えている。


 天辺も盛り上がっており、なんだが違和感しかない。


 俺みたいな奴が、こんな髪型をして良いのか?


 調子に乗りやがってとか思われないか?


「うーん、時間がないからアレだけど……少しはマシになったわよ。あんた、私やお母さんには似なかったけど、不細工ってほどじゃないんだから。きちんとした格好すれば、普通になれるのに」


「いや、めんどくさいし。そんな時間とお金あったら、他に使うし」


「はぁ……それがあんたよね。まあ、葉月ちゃんが何とかしてくれるでしょ。ほら、さっさと着替えて行きなさい。じゃあ、私は一回出るから」


 姉貴が出て行ったあと、一人にされる。


「ジャケットなんか着たことないのに……」


 仕方がないので、高そうなズボンとジャケットを着て……洗面所から出る。


「……まあ、及第点ね。即興にしてはマシか……」


「動き辛いな……」


「そりゃ、ジャケットだもの。ほら、早く行きなさい。女の子を待たせるんじゃないわ」


「いや、ギリギリになったのは俺のせいじゃ……」


「良いから早く」


「わ、わかった……行ってきます」


 姉貴が怖い顔をするので、急いで靴を履く。


「ええ、いってらっしゃい……まさか、弟が女の子と出かけるなんて」


「いや、別に弟や妹もいるし……」


「それでも良いのよ……頑張ってきなさい」


 慣れない格好をして、俺は玄関の外に出る。


 ……別に、そういうんじゃないんだが。


 姉貴があんなこというから、めちゃくちゃ緊張してきたぞ……。












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