第28話 朝の訪問


 翌日の朝、俺はいつものようにルーティンをこなす。


 朝一話書いて、それを予約登録する。


「よし、今日も良い話が書けた」


 もちろん、全ての話を面白いと思って書いている。


 だが、自分が良い話だと思う時は、確かに存在する。


 そんな時は、書き終えた時の感覚が違うのがわかる。


 そして書籍化作家さんに聞くと、それが大事だと教わった。


 その感覚で物語をかける人が書籍化すると。







 その後、朝ご飯を食べて……。


「じゃあ、そろそろ行ってくるわね」


「うん、いってらっしゃい……あれ?」


 何やらピンポンの音が鳴る。


「こんな朝早くに誰かしら?」


「俺が出るよ」


 俺が、玄関の扉を開けると……。


「お、おはよ」


「葉月……? どうした?」


「い、いや、その……イベントってやつをしようかなって」


「イベント? 何のイベントだ?」


「ラブコメイベントってことよ。美少女が朝からお迎えにくるってやつ」


 確かに、そういうイベントはある。


 しかし、自分に起こるイベントとは思ってなかった。


「……おおっ」


「な、なによ?」


「いや、感動してる」


「そ、そう。なら、よかった」


 すると、姉貴がやってくる。


「なになに、どうしたの……あら、葉月さんだったっけ?」


「おはようございます、小百合さん」


「あらあら、こんなかわいい子が朝から迎えに来てくれるなんて……天馬、よかったわね」


「いや、ただのイベントだから。前にも説明したじゃん」


「むう……」


「……なんで不機嫌な感じになるんだ?」


「知らないし、自分で考えたらいいし」


「はぁ……わが弟ながら情けないわね。葉月ちゃん、どうかよろしくね。こいつにラブコメイベント?ってやつを教えてあげて」


「はい、わかりました」


「どういう意味だ?」


「いいから、さっさとどきなさいよ。葉月ちゃん、ごめんなさいね。とりあえず、家に上がっていいから」


「あっ、ありがとうございます。それと明日なんですけど……」


「ああ、天馬が言ってたやつね。大丈夫よ、好きにきてもらって」


「すみません、お休みなのに……母からもよろしくお願いしますとお伝えくださいと……では、お仕事お気を付けください」


「ありがとう、それじや行ってくるわ」


 いつも道理に、慌ただしく姉貴が出かけていく。


「まあ……とりあえずあがれよ」


「お邪魔しまーす」


 葉月を部屋にあげて、リビングに通す。


「すまんが、洗い物とかあるから座って待っててくれ」


「あっ、そうなんだ。私も手伝っていい?」


「はい? いや、悪いし」


「でも、さっきので時間使っちゃったから。まあ、押し問答してる時間が勿体ないから、ちゃちゃっとやっちゃおうか」


「まあ、それは言えてるな」


 確かに時間が勿体ないので、結局手伝ってもらうことにした。






 二人並んで、キッチンの洗い場に立つ。


 ……なんだ、この状況。


 俺、女子と並んで洗い物してるぞ?


 どうしても密着せざるを得ないから、さっきからいい匂いがするし。


 ……い、いかん、何か話さないと。


「そういや、ずいぶんと朝早くきたな。確か、いつも教室に入るの俺より遅かったよな?」



「……」


 あれ?返事がない……。


 横を見ると、なにやら険しい顔をした葉月がいる。


「おい、聞いてるのか?」


「ふえっ!? な、何よ!?」


「いや、何はこっちのセリフなんだが……」


 なんで、怒った顔なんだ? 俺、何かしたか? ……臭いとか?


「べ、別に……んで、何よ?」


「だから、今日は随分と早く来たなって」


「ああ、そういうこと……いつも遅いのは、桜たちに合わせてるわけじゃないんだよね。妹を幼稚園に送って行ったり、朝の家事があるから」


「まあ、そうだろうな」


「でも、今日はおばあちゃんが来てくれたから。普段は来てないんだけど、頼んだら週に二回なら来てくれるって」


「なるほど、それは助かるな」


 うちは母の両親は亡くなってるし、親父の両親は飛行機でいかないと会えない距離にいる。


 なので、そういったことができなかった。


 もしいたら、姉貴はもう少し楽になっただろうなぁ。


「うん、ほんとに。これも……君のおかげだし」


「うん?」


「君は家族愛とか書くでしょ? その中に『甘えすぎるのは良くないが、頼ってもいいんだ』ってセリフがあって……」


「ああ、確かに書いたな」


「なんとなく頼る=甘えると思ってて。だから、頼ることも悪い気がして……でも、それを見て甘えすぎるのは良くないけど、頼るのはいいのかなって思えて」


「そっか……まあ、その線引きは難しいな」


「そうなんだよね。でも、おばあちゃんに言ったら……こっちも私に助けられてるから良いんだよって言ってくれて。だから、少しはいいのかなって」


「………ああ、そうだな」


「だから、君に……ありがとうって言いたくて」


「……こっちのセリフだ」


「えっ? なに? 聞こえなかったからもう一回言ってよ」


「なにも言ってないし」


「あれ? 私、何か変なこと言ったかな?」


 葉月が執拗に聞いてくるが、黙って洗い物をする。


 そうしないと泣きそうになるからだ。


 そういう言葉は、俺たち物書きにとって……一番嬉しい言葉だからだ。





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