第29話 将来の話
その後、洗い物を済ませたら……。
「んじゃ、学校いくか」
「そうだねー、そうしよっか。私、先に出てるね」
「分かった、俺もすぐにいく」
葉月がリビングをでて、家のドアの閉まる音がする。
……家から出ていったか。
「ふぅ……緊張した」
何でもない風に装っていたが、内心ではそんなことはない。
かわいい女子と、家の中で二人きり……何も考えないほうがおかしい。
「やっぱり、明日は弟や妹も来てくれて正解だったな」
でないと……変なことを考えてしまいそうだ。
戸締まりチェックをしたら、家から出る。
そして、一緒に学校へと向かう。
「すまん、またせた。戸締まりをしっかり確認する癖があってな」
母親はいないし、おやじは単身赴任だ。
いろいろと物騒な世の中だし、うちは姉貴がいるから気を付けないとだし。
「ううん、平気だよ。それに、私もだし。お母さんと私、小さい子供しかいないから……やっぱり、色々こわいし。だから迎えに行ったり、放課後に遊んだりしないで家にいるし」
「それもそうだよなぁ」
特に成人男子がいないのが怖いよな。
うちは、高校生だけど俺がいるし。
「まあ、流石に来年になれば小学生になるから、もう少し楽になるけどね」
「集団登下校とかあるしな」
「そうそう。通う小学校は家から近いし安全な道が多いし。それに、拓也も三年生になるから少しは成長するしね。何より……来年からは受験生だし、流石に私も勉強しないと」
「確かに。俺も、三年生くらいの時には色々と手伝いとか出来てきたな……受験か」
「私は学費の安い国公立の大学に行くつもりだけど、野崎君は大学に行かないの?」
少し前の俺が聞いたら、こいつ何言ってんだ?って思っただろうが……。
今は、少しは葉月のことを知っているから、特に変には思わない。
こいつが意外と真面目なのも、学費が安い理由もわかってるし。
「うーん……悩みどころではある」
「大学にいかないってこと? それこそ、書籍化して作家として生きていくとか…… 調べたら、高校生作家さんとかいるんでしょ?」
「そういう意味ではないかな……確かに高校生で書籍化作家はいるけど、それだけで生活できるわけじゃないし。もちろん、一部の天才とかはいるけど……打ち切りになったり、二作目が売れるとは限らないし。これは、書籍化してる先輩からの受け売りだけどな。仮に高校生作家になれたとしても、何かしらの定職に就いたり、進学する予定ではあるよ」
アキトさんから、そのあたりのことは聞かされてきた。
デビューして有頂天になって仕事をやめ、売れなくて消えていった人達を。
「そうなんだ、やっぱり大変な世界なんだね。じゃあ、何に迷ってるの?」
「ありがたいことに、親父が大学にいく学費はだすって言ってくれた。あとは、そういう専門学校にいくかどうか悩んでるかな」
「へぇ……すごいね。もう、そこまで考えてるんだ」
「そ、そうか?」
「うん、そう思ったよ。色々な人と話すけど、そこまでしっかり考えてる人少ないし。野崎君みたいに、自分のやりたいことが決まってる人って」
「……なるほど、そういうものか。俺は話すとしても、年上が多かったりするからなぁ」
あんまり同世代と話していないから、その辺の感覚がよくわかってない。
……これはまずい……作家として、それはまずい。
聞いたものと経験したものは、物語を書く上で全くの別物だ。
当然だが、経験したものの方が書きやすい。
それに、ラブコメ以外でも困っていることがある……日常だ。
「どうしたの?なんか唸ってて怖いんだけど……」
「葉月!」
「な、なによ?」
「俺に普通の高校生がやってることを教えてくれないか? 放課後、何をしているとか……どんなところで遊んでるとか」
「ふ、ふーん……もう、私から誘うところだったし」
「うん?」
「な、何でもないし! ほら、いこ!」
「お、おい!?」
途中から腕を組まれて、学校へと向かう。
……実は、それを待ってたとは言えない。
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